劇場アニメ『ルックバック』―特別興行だけど/だからこそ映画館で観るべき作品
注)もしかしたらネタバレあります
レイティングはG:全年齢ですが、一部センシティブな描写はあったかもしれません
2021年7月19日に「少年ジャンプ+」にて公開された藤本タツキ先生による長編読切作品の劇場アニメ化が映画館で上映中です。
原作漫画は試し読みの部分までは読んでいて、やはり『チェンソーマン』(2019 - 連載中)のシュールレアリスムな描写と似た雰囲気もありながら、すごく人間臭い感じでかなり好みでした。試し読みで京本と出会った直後の藤野が雨の中を小躍りしながら帰るところまで読めますが、あの部分は童心を突かれる気がしてすごく懐かしさと恥ずかしさが混じるえもいシーンでした。特定の動画配信サービスでの限定配信ではなく劇場公開になると知った時は興奮しましたね。
学生新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートからは絶賛を受けていたが、ある日、不登校の同級生・京本の4コマを載せたいと先生から告げられるが…!?
特に宣伝もしてないし下北とかびればんとかサブカル好きが勝手に崇めてる系の映画やろと思っている方!!それはもしかしたら「たぶんそう、部分的にそう」かもしれませんが決して「はい」ではありません。運動部の青春ではなく文化系の青春を描いていると思うので、私のような"オタクだと思われてキモがられちゃう"傾向にある人間には特に刺さりました。
映画『ルックバック』観てきました。こんなん絶対泣くしかない。場内のひともほとんど泣いてたはず。約60分の中でアニメーション(生命)がぎっしり詰まってました。作品に関わったひとも映画館のひともなんか全員にありがとうございます。#映画 #ルックバック #藤本タツキ #河合優実 #吉田美月喜 pic.twitter.com/8Yv9HfCNen
— ほちょこ (@e_hocho) August 15, 2024
理屈より先に心と体が追いかけっこしながら動いてしまう感じが忘れてしまった小学生の頃の好奇心と活力を表現している気がして私の心は共感の嵐でした。
おとなになると何をするにもだんだんと腰が重くなる上にやたら言い訳が増えてしまって、自分でも「うだうだ言う前にやってみろ」と思うのですが児童や学生の頃と違うのは時間もお金も限りがあるということを社会に叩き込まれてしまったから。そして失敗して自分のプライドと時間を無駄にしたくないから。でも小学生くらいの頃はおとなになるのはずっとずっと先のことで「絶対できる」みたいな謎の自信に満ち溢れる瞬間が確実にあった気がするのです。
漫画家になった藤野が画面に向かって漫画を描きながら編集担当とアシスタントについてスマホでスピーカー通話しているシーンがあるのですが、その時の苛立ちみたいなものがとてもリアルで会社のデスクで仕事をしていた頃のじんわりとした嫌な感じを良くも悪くも思い出しました。そうしたザ・日常の中に衝撃的なできごとが差し込んでくるのですがネタバレなので我慢。
母がテレビや新聞で仕入れた前評判によると藤野役を演じる河合優実さんと、京本役を演じる吉田美月喜さんの演技が非常に高評価ということで、そこもかなり期待して上映を待っておりました。
映画館で号泣することはあまりない方ですが、今回の作品は我慢できずにまずは泣きました。本当はもっと鼻をずるずるして軽い嗚咽を堪えるレベルでデトックス的に泣きたかったのですが、外に出てひとに泣き腫らした顔を見られたら恥ずかしいなと思ってしまいかなり我慢しました。
なぜそんなに感情に訴えかけるものがあったのかというのはネタバレになるのと、今作に関しては考察や理屈っぽい説明は不要といいうか野暮だなという印象もあり「自分が観て感じたそれが答え」のような作品だと私は感じました。あくまで受け手側としては良い意味で頭で深く考えなくても心にストンと落ちてきていろいろな感情を掘り起こして溢れさせてくれる、やっていることは映画鑑賞なのですがまるで音楽のように感受性を刺激してくれる作品でした。
「#ルックバック」観客動員数100万人突破を受け、#押山清高 監督よりコメントが到着いたしました。 pic.twitter.com/9XNy1GuEm5
— ルックバック【劇場アニメ公式】2024年6月28日(金)全国公開 (@lookback_anime) August 23, 2024
自分だけの映画として語らせていただいてます!!
鑑賞後にすぐ喧騒を抜けて電車に乗るのがイヤというかもったいない感覚がして、裏道を抜けて余韻に浸りながら帰りました。特別興行ということで割引がなくどこの映画館でも一律1,700円ですが、この最高に暑い夏に映画館まで観に行って本当に良かったとほっこりしていました。
なぜ「描き続ける」のかの答えが、モノローグや回想などの言葉や映像での説明ではなく1カットのみで全て示されたあの瞬間は本当に素晴らしいかったです。
以上がパンフレットなどを見てネタバレを喰らわずに映画だけ観た直後の率直な感想です。
最近は映画パンフレットも紙も印刷も良質で内容も濃かったりするのでそれなりに販売価格もお高いものが増えてきました。今作のパンフも1,500円と少々躊躇する価格ではありましたが鑑賞後に迷いなく購入。読んでみて改めて映画の感想と、映画鑑賞後の自身の心境を嚙みしめてみることに。
劇中では実際に起こったとある事件が元になっている部分もありましたが、監督と原作者の対談によると東日本大震災の影響などもあったようです。私もクソ生意気に年齢だけは重ねているので、小さい頃から自分の信念や価値観のようなものを揺るがされる社会的な事件や事故や天災を積み重ね経験したことで深く考え込むこともあります。特に作家やアーティストのような繊細で感受性の高いひとが多い(であろう)職業は自身の作風にも否応がなしに強く反映されることは多々ありそうです。
対談の内容を事細かに書いてしまうとネタバレや著作権侵害になるので書けませんが、読んでみて改めて思い返したり感じたりすることがありました。
藤本タツキ先生の代表作『チェンソーマン』
米津玄師の主題歌も話題に
私も小学生の頃は漫画やアニメが好きでキャラクターの絵を見ながら真似て描いたりして遊んでいました。同じように絵を描くのが好きな友達と見せ合いしたり交換日記にしたりすることもありました。絵が上手いね!!と言われるともちろん嬉しかったですし描くことが楽しくてノートがイラストだらけになっていた時期もありました。
小学校高学年の頃に友達と図書館に行ってアニメのキャラクターを描いてお互いに見せ合った時に、相手の絵が本当に上手くて漫画家を志していたわけではありませんでしたが(むしろ周囲からは某お笑い事務所の養成所に行けと言われていました)正直心の奥底で嫉妬してしまった記憶があります。と同時に私にはこのレベルに達するのは無理だなという諦めみたいなものも感じたと思います。私の経験は藤野の挫折感と比べれば小ダメージではありますが、そういう意味ではルックバックの藤野の気持ちはよくわかりました。
それでも高校生の頃は漠然と進路に芸術系を選択していて、同じような学部や学科を目指している友達とオープンキャンパスに行ったり学園祭に行ったりと情報収集はしていました。ただ、私が人生で唯一と言っても過言ではないくらい信頼と尊敬の担任の先生に「絵は一般的な四年制大学に行っても描けるし先生の同級生にも文系の大学を出て某企業(社名も聞きましたが世界的な超大企業)でイラストを描く仕事をしているひともいる」と諭されました。
その瞬間は正直あまり納得できませんでしたが、強く反論もできませんでした。私は他の友達のように学園祭などの学校行事で積極的に絵を提供したり、美術部に入って絵を描き続けたり、自分で漫画やイラストを描いてみたりなどの行動は何もしていなかったのです。むしろ実技試験がない大学や専門学校を探しているレベルだったので、今考えるとクリエイティブなことに未来を全賭けするには考えが甘かったと思います。
劇場版の制作も決定
紆余曲折ありましたが最終的には学士号を取り履歴書の学歴欄にも書けるようになったため、学歴社会が根強い日本では難しめの応募でも打率は良かったです。ただ、今までやってきた仕事はバックオフィスが中心だったので経験としては「やってみたいこと」でしたが、おそらく「やりたいこと」とは離れてはいました。それでも働きながら同人誌を書いてコミケに出展したりネットなどで積極的に発信したりしているひともいました。当時の私は頭で考えるばかりで行動が伴っていないことを痛感しました。本当にそういう仕事をしたいのだったらとにかく創作して発信するべきだったのです。
こういったこともあって職を転々とする風来坊なので広く浅いタイプで業界の経験がありますが、やはり天災などで命の危険にさらされた時に必要になるのは何より食料品や日用品や各種サービスなど生活に直結するものであって、そういった時にいちばん無力なのは娯楽です。これは組織の末端で働いていた私も平和と安寧あっての仕事だということはよく考えていました。大前提として安全が保障されていなければ成り立たない職業であり、いつ社会から不必要の烙印を押されてもおかしくない立ち位置であることは覚悟して従事するしかありません。
それでは生命を維持していくために必要がないかもしれないことをする理由は何だろうと考えることもありますが、私がエンタメを重視する理由のひとつに、自分が生きるのがつらいと感じた時にいちばんに助けてくれた存在と思っているからです。それは地震などで被災した方々と比べれば個人の悩みの範疇なのでちっぽけなものではあるかもしれませんが、あー4にたいなぁなどとふと脳裏に浮かんだ時に助けてくれるのはテレビで観る番組やドラマやアニメだったり、映画や音楽やミュージックビデオや、ゲームや…とにかく全部です。
私が高校生の進路相談で芸術系を目指したいと思った理由もそこに繋がります。私のようにつらいなぁと思ったひとの心に寄り添える何かを作りたい、生み出したいというやる気だけはありました。でもそういった存在になるには裏打ちする経験や技術も伴わなければいけないということを当時の私は理解していなかったのだろうと今では振り返ります。そうでなければ誰かを救える程のエンタメを提供するには説得力がなくなってしまう。
誰かを心から笑顔にさせて救ってあげたい、導いてあげたいという自分本位な考え方すら傲慢なのではないかとも考えたりもします。誰かが私を通じて生きるのが少しでも楽になるのならそれが私の幸せであり、同時にその誰かに私も生かされているのだと思います。別に怪しい宗教を立ち上げたいわけではないです。
haruka nakamura さんの音楽も素晴らしいです
鑑賞後に若いひとたちがグッズやパンフを買っているのを見かけて、もしかしたらこの作品を観ているひとのなかに美大生や専門学生などそういった職業や活動を志している若者がいて、でも現実的に見ると才能やスキルもそうですが人脈や運など結局はビジネスなので、漠然とした将来に不安を抱えながら夢に向かって頑張っているひともたくさんいるんだろうなと思うと、エンドロールで流れた讃美歌のような曲(「Light song」by haruka nakamura うた : urara)も粋な演出だなぁと思ったりもしました。
劇場アニメ「#ルックバック」
— ルックバック【劇場アニメ公式】2024年6月28日(金)全国公開 (@lookback_anime) August 23, 2024
観客動員数100万人を突破いたしました。
劇場でご覧頂いた皆様、誠にありがとうございます。
感謝の気持ちを込めて、
オリジナルスマホ壁紙をご用意いたしました。
ぜひダウンロードしてお使いください。 pic.twitter.com/KxPYX0lSNX
動員数100万人突破おめでとうございます!!
藤野による4コマ漫画のアニメーションがいろいろな意味で何気に豪華だったのでそこも驚きました。これから劇場で観るひともリピートするひとも是非没入していただきたい、いろいろな感情を全身で溢れ出しながら楽しめる作品だと思います。
描き続ける
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