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映画『コンビニエンス・ストーリー』―お盆と彼岸によく似合う異世界ループADV

先日、もはやお馴染みのテアトル新宿にて映画『コンビニエンス・ストーリー』鑑賞してまいりました。ちょうど、三木聡監督、主人公・加藤役の成田凌さん、加藤の恋人ジグザグ役の片山友希さんによるトークイベントがあったのでそちらの回を購入。

監督によると今作の企画・考案である映画評論家のマーク・シリングさんが感じた「日本のコンビニのなんでもある感＝その空間で全て完結してしまう不可思議さ」のようなものが物語の中心になっているとのこと。話していたことそっくりそのままは覚えきれなかったので表現がちょっと違うかもしれませんが、概ね確かこんな感じです。いちばんのきっかけは東日本大震災でのご自身の経験だそうです。

観客は、あっちゃんこと前田敦子さん演じるコンビニ「リソーマート」の主人の妻・惠子に翻弄される加藤の理不尽かつ不可解な「？？？」という状態を追体験するような感覚に陥れられます。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ

ドイツの哲学者であるニーチェの言葉（とされている言葉）。本来の意味とは乖離していると思いますが、１発目の感想としてはまさにこんな感じ。ドリンクの冷蔵ケースが「深淵」なのかもしれません。異界への入口ですね。

映画館トークイベ行きました‼️本当に何の根拠もなく三木聡監督は気難しくて恐そう…と勝手に思っていましたが、とても気さくでお話もおもしろいイケおじ様🤣REDWINGみたいなブーツとデニムコーデがおしゃれでした。#コンビニエンス・ストーリー #三木聡 #成田凌 #前田敦子 #片山友希 #小田ゆりえ pic.twitter.com/cYq4M8abpP

— ほちょこ (@e_hocho) August 24, 2022

映画はもともとプレスリリース当時から映画館で観ようと思っていましたが、暑くなればなるほどコロナが大爆発していったので特段恐れていたわけでもないのですがなんとなーく映画館から足が遠のいてしまっていました。そもそも夏バテで外出しようという気力も削がれていたのでフルコンボです。加えて今夏はミニシアター系の邦画以外にもシン・ウルトラマンやワンピースREDなどのシネコン系映画も観られたら観たいなあと思っていたので観たい映画が渋滞していました。

そんな出不精な私を後押し??してくれたきっかけとしては私の親戚が知人にウン百万のお金を貸してしまい、借用書に記した期日も守られず先方も全く返す素振りもないという揉め事が発端でした。親戚も高齢なので存命中に返ってくるかもわからない（加えて個人間の借金にも消滅時効があります）という謎発言＋よそから借金しているくせに外食やら宿泊やらで遊びまくっているという謎話を聞き付けさすがの私も家族も激怒。現実の方が不可解で超残酷なミステリーサスペンスホラーです。頭の中はスプラッター状態。

自宅で塞ぎ込んでいたり同じ情報をぐるぐるグーグルとネットで巡回していてもどんどん堕ちていくだけなので「そうだ、映画観よう」ということで、ちょうど近い日にトークイベントがあることは知っていたので飛び出すように映画館に出かけました。今夏のコロナ禍が怖くなかったというと嘘にはなりますが、割と新宿渋谷池袋の副都心を中心に歩き回っていても今のところ喉の痛みや発熱等はないので、換気が悪い室内に密集するとか運悪くどこかでもらってきてしまうとかいろいろ考えられることはあるのですが「もう基本的な対策（手指を消毒する、マスクを着用する、密集を避ける）以外に防ぎようがない」というのが周囲での見解なので私も過度に神経質にならないようにしています。

その時の私の精神状態でこの映画をチョイスしたのは非常に良かったです。なぜなら、なにがなんだかわからなくて頭がからっぽになるから（≒できるから）。もちろん退屈だとかそういった理由ではなくて、現実的な思考回路から無理やり引っぺがしてくれるタイプの物語だったので発想の転換や息抜きなんかにもちょうど良かったです。むしろ合理的に物語を理解する、隠された社会的なメッセージ性を自分なりの理屈を付与して受け取る（考察系）といった解釈の方が私には難儀でした。

六角さんとあっちゃんは夫婦役なので無理やりちゅーされて嫌がるみたいなシーンもちょっと期待していたのですが、精神的にじりじりと詰め寄ってくる感じがコワカワいい。主人公の加藤と肉体関係を結んで…というシーンはありましたが監視カメラで不倫現場がばればれという凡ミスにより激怒された加藤との攻防は狂気じみていてドキドキしました。

もはや何をしていてもしっくりくるところが「さすが六角さんだぁ」と改めて魅力を再確認。むしろズルいとすら思うキャスティングで、六角さんの感じだったらわざわざ発電機とスピーカーを持って森の中で指揮者ごっこしていても「あ、そうなんだ」と受け入れてしまう。何をやっていても違和感がないです。さすが呑み鉄という新境地を開いた先駆者であります。

話に張り巡らされた伏線は何ひとつ回収されませんでした。無理に深く考えなくとも「わけがわからないよ」のままで良い作品だと思います。あっちゃんは最初から最後までコンビニに囚われたまま、加藤のことは自由を手に入れるために利用したのか本当に愛してしまったのかもわからない。

異世界転生ループものはアニメやゲームでも人気のジャンルで私自身も『魔法少女まどか☆マギカ』『STEINS;GATE』『SIREN』などの世界観や線と線が交わってひとつの点が見えた時に「あっ」となるあの快感が堪らなく好きです。よく記憶を消してもういっかい観たい（プレイしたい）と言いますが本当にそれ。起承転結のなかで特にアニメはゲームのようにプレイヤーがマルチエンディングを求めて何度も何度も繰り返すという実体験がないので何かしら合理的なエンディングだったり次回への伏線だったりはありますが、今回は映画なので「はい、終わり！」とエンドロールとともに突き放されるような感覚もありました。

鑑賞の翌日、車が突っ込んでくる夢をみました。テアトル新宿の音の臨場感はんぱなかったです。

ループものとは明確に示されてはいないと思うのですが、最後にジグザグが帰ってこない加藤を想って「犬人間」の瓶に花を挿してコンビニの付近にそっと置くシーンがあり、冒頭ではそれらしき同じものを加藤が誤って蹴って割ってしまうシーンがあります。時系列的に考えると加藤が最初にコンビニに行った時には花が挿してある瓶はないはずなのですが、そこもいやーな感じに謎を残したまま終わりました。なぜか２回目も車が突っ込んできていましたし加藤は「異界」に取り残されたまま同じ時間軸を彷徨うことになったのかもしれません。

追記）
今回のトークイベントで初めて間近（１メートルくらい）で成田凌さんを拝見しましたが「背の高いおにいちゃん」という感じで映画や演劇などで感じる雰囲気とそんなに変わらず。失礼な感想になるかもしれませんが「いけめん俳優だ!!」というよりは「普通の背の高いシュッとしたおにいちゃん」て感じでした。逆にそれが個性というか強みなんだろうなと思って作品を楽しんでいます。ジグザグ役の片山友希さんは劇中ではかなりハチャメチャな役どころなのですが手脚がほっそりして肌が綺麗で「女優さんってやっぱりすごいや」と改めて感心してしまいました。そのひとが映画の中でサッと下着姿になったものですから同性なのに何故か照れちゃう私。他の映画の舞台挨拶やトークイベントなどでも女優さんを近くで見たことは何回かありますが、オーラが一般人のそれと本当に違います。化粧だとか衣装だとかいろいろ意見はあるかもしれませんが、俳優は体力勝負だと思っているので過酷な練習や撮影の中であれだけの健康美を維持しているのは素直にすごいです。もうアスリートですね。

＊　＊　＊

世界情勢や容赦ない自然災害に不安定なコロナ禍でエンタメ系に関わるひとたちは何かと考えてしまうこともあるようですが（←インタビューなどで拝見して）どこかに非現実的なものがないと私は落ち込んじゃうタイプなので是非頑張って欲しいです。

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