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映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』―いつか見たような器用に生きられない男の物語

2022年2月19日 

ややネタバレあります

昨秋に朗読劇『湯布院奇行』を観に劇場まで足を運びまして、コロナ禍という何かとしがらみが増えたご時世に舞台芸術を楽しめたことに非常に満足しておりました。当初は主演の成田凌さん、黒木華さん、歌唱のコムアイちゃんというキャスト陣に惹かれてわくわくで発券したため、舞台の原作を担当されていた燃え殻さんのことは実は存じ上げていなかったのです。

あらすじ

Facebookの"知り合いかも"に出てきた昔の恋人…。40を過ぎ夢も希望も消え失せて、漫然と生きているだけのボクの心に、輝いていた90年代の思い出がよみがえる。

―NETFLIXより

正直「考えるな、感じろ」的な映画な気がして、具体的に自分なりの感想みたいなものを言葉でまとめられないのですが(ブログなのに矛盾していますが…)これがエモい=emotional:感情的、情緒的なのかなと感じながらの約120分でした。彼女が突然いなくなってしまった理由など映画の中でももちろん説明はされていませんし「ご想像にお任せします」感が却って自分の経験や思い出などを掘り返してくれるような、主人公と自身の記憶を重ね合わせて追体験している感覚に陥れてくれるのかもしれません。ただ私自身は90年代の記憶はありますが当時は公園で鼻水垂らして遊んでいたり友達の家に入り浸ってゲームしたりしているガキでしたので、劇中のようなオトナな思い出はありません。それでも合間合間に出てくる実際の事件や災害などはよく覚えているので「みんな同じ思いだったのだろうか」などとやや感傷に浸る場面も。

1999年 ノストラダムスの大予言
2000年 IT革命
2011年 東日本大震災
2020年 新型コロナの世界的流行 など

随所に散りばめられた90年代の思い出

冒頭「46歳、つまらない大人になってしまった」で始まる本編。主人公である佐藤(森山未來)は1999年に突然去ってしまった元カノであるかおり(伊藤沙莉)がそれからたった数年で結婚して家庭を持ち"フツー"の生活を享受していることをFacebookで知る。2人の出会いは情報誌の文通コーナー(今で言うところのマッチングアプリみたいな文化)を見た佐藤が「中野区の犬キャラ 20歳」に手紙を送ったのがきっかけ。ペンネームが小沢健二のファーストアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』(1993)の略称であることにすぐに気付いた佐藤に当時の職場の同僚だった七瀬(篠原篤)がそのページを切り離して渡したのが本当にいちばん最初のきっかけです。以下に劇中登場した中で私が個人的に特にピンときた90年代カルチャーを掘り下げ。

小沢健二

2人を引き合わせる共通点になったのが"オザケン"でした。世代的にリアタイで追ってはいませんでしたが、スチャダラパーとの『今夜はブギー・バック(nice vocal)』は超名曲です。今もなお多くのアーティストがカバーやマッシュアップをリリースしています。かおりがオザケンが好きだと言いながらも手紙にさりげなく筋肉少女帯の大槻ケンヂ(オーケン)の写真も多用していた上にオザケンにオーケンメイクの落書きまで施していたのがちょっとツボりました。

小沢健二 featuring スチャダラパー
『今夜はブギー・バック(nice vocal)』

BEAMS40周年記念動画
1976年から2016年までの40年間のカルチャーを振り返る

電気グルーヴ

いろいろありましたが今でも活躍中の音楽ユニット。『Shangri-La』(1997)は当時からよく知っていましたが、私が特に好んで聴くようになったのはフジテレビノイタミナ枠「空中ブランコ」(2009)でOPEDを担当した時からだったと思います。『Upside Down』(2009)のシングルCDは発売してからすぐ買いました。

劇中で2000年当時に佐藤が仕事で関わっていた番組のメインスポンサーである佐内社長(平岳大)がDJ披露した際に流れたのが"電グル"の『虹』(1995)です。

ちなみに『Shangri-La』はBebu Silvettiによる『Spring Rain』(1975)のサンプリング。今話題の無断なにがしではなく表記もされているのであしからず!!です。

JR山手線原宿駅

東京2020五輪の開催や老朽化に伴い駅舎や駅構内は改築されましたが、昔は狭くてボロかったです。コロナ禍になってから渋谷原宿周辺は行くのを避けるようになってしまったので今現在の状態をよく知らないのですが、宮下公園もわけわからんくらいに綺麗になっちゃいましたし(もはや公園というより普通の商業施設)90年代全盛の頃と比べるとかなり雰囲気も変わりました。

ラフォーレ原宿

一時期閉店説が出ていたような出ていなかったような記憶がごっちゃになっているのですが、ここで高校生の頃にミッキーマウスのTシャツを買って変な袋(ショッパー)に入れてもらった記憶があります。当時は特にアパレル系の紙袋やビニール袋をサブバックみたいにして使う文化??がありましたので、おされな学生は学生鞄とは別に高そうなお店のショッパーも持ち歩いていました。後で調べたら原宿GAPの跡地が今の「東急プラザ表参道原宿」になっているので、それと勘違いしていたのかもしれません。

明治通りの交差点はやはり昔から何故か目立っていて、ロッテリア(現在は閉店)やジョナサンに入り浸った??り、「コンドマニア」(コンドーム専門店)なんぞは高校時代に耳年増丸出しで通り過ぎたりしてました。原宿のコンドマニアなくなったの⁉と思ったら道路拡張工事で移転してほぼ同じ区画ですがやや奥まった場所で営業しているようです。利用する機会はないのに存在してくれていることが嬉しいです。最近ではコロナ禍の影響か原宿の小さなテナント店が続々と撤退している様子を目の当たりにしてしまったりすると、普段頻繁に利用しているわけでもないのに寂しいなぁと肩を落として帰宅することも。

渋谷パンテオン(東急文化会館)

2003年閉業の複合施設。名前だけは覚えているくらいの感じです。跡地は渋谷ヒカリエになりました。プラネタリウムと言えば渋谷か池袋に連れて行ってもらっていたようないないような気がしてはいたのですが、渋谷のプラネタリウムは東急文化会館に入っていたので今はもうありません。佐藤とかおりがはじめて神泉のラブホテルに行く際に佐藤が乗っていたバスのアナウンスでのみ登場しました。

ポケベル(ポケットベル)

当時の流行りに乗ってか親が持ってました。すぐにPHS(ピッチ)が普及したため今のスマホみたいに誰でも持っているみたいにはならなかったような気がします。あとは固定電話の留守録機能やFAXの方が活躍していた感も。

MD(ミニディスク)

私が高校生くらいの頃は割と周囲が使ってました。今のスマホや専用プレイヤーの容量やら操作性やらが良すぎるので「録音面倒だったなぁ」とか「イジェクトに失敗してよく壊れてたなぁ」みたいな記憶の方が強いです。ポータブルMDプレイヤーは持っていなかったのでメモリタイプのウォークマンを買ってもらえるまではおさがりのカセットウォークマンを聴きながら登下校していました。友達に「競馬中継聞いてるおっさんかよ」とよくバカにされました。

映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)

神谷浩史さんと上坂すみれさんにより
あたるとラムが帰ってくる!!

80年代の映画ですが「ビューティフルドリーマー」と言ったら多分これ。押井守監督の世界観が強すぎたのか原作の高橋留美子さんが受け入れられなかったという逸話を持つも今でもカルト的人気が高いと思われる傑作です。なぜか私は高校の美術の時間にこれを観せられましたが今考えると美術の先生の趣味です。メガネの友引前史、しのぶと風鈴、ラムとの会話で世界の変化に気付いた面堂のシーンなどアートチックというか妙に印象的な場面が多くて惹かれる映画です。中盤までは正直よくわからないというか独特な世界観と「終わらない学園祭初日の前夜」という設定(「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンドレスエイトみたいな感じです)がちょっと怖いレベルなのですが、終盤で超重要キャラが出てきて(ボイス担当が超大御所)良い感じに説明してくれるので「なるほど」というところには落ち着きます。

捕捉)赤玉

劇中の内容だけではよくわからなかったので調べてみたところ、2015年に販売中止になった睡眠導入剤「エリミン」のようです(←違ったらすみません)。これは商品名で正確にはニメタゼパムと呼び、デパスやソラナックスなどでも知られるベンゾジアゼピン系の向精神薬です。見た目が赤いので赤玉という通称で乱用の対象とされていたことや依存性や副作用などにより今現在では日本で見かけることはない(と信じたい)です。仮に合法であってもクラブでお酒と一緒に向精神薬、ましてや依存性の高いベンゾ系を飲むのは絶対にダメ。薬は正しく服用しましょう。蛇足ですが上述の『ビューティフル・ドリーマー』にも、養護のサクラ先生が温泉マーク(あたるたちの担任)に「トランキライザー」を手渡そうとするシーンがあります。

伊藤沙莉さんの魅力にらぶ

のっけからそっちの話題でお恥ずかしいのですが、伊藤沙莉ちゃんが脱いだ⁉というのはちょっとびっくりしました。特に『全裸監督』(2019)や『全裸監督2』(2021)などのイメージが強く、男性に対しては割とデンと構えていて気が強いとか姉御肌とはまた違うけれど何だか可愛くて頼りになる…という絶妙な役どころが多い気がしていたので処女という設定は少々新鮮でした。佐藤との逢瀬を重ねるごとに伊藤沙莉ちゃんにしか出せないオンナが徐々に滲み出てくるのですが、散々振り回した挙句にどこかに行ってしまうという奔放な女性かと思いきや、今は結婚して家族がいる"フツー"の生活を送っている。でも憎たらしいとかとは何故か思わない、観客を嫌な気持ちにさせない空気感がある女優さんで素敵だなぁと改めて思いました。その代わり完全にヒールな役に徹するとどうなるのか(既にあったらすみません)という好奇心も生まれました。

TBS系ドラマ『この世界の片隅に』(2018)に出演していた時も最初は主人公のすずに対して少し意地悪な感じでしたが結局「めちゃくちゃいいひと」になっていたので、そこのバランス感覚がすごく好きです。子役の頃にテレ朝系ドラマ『菊次郎とさき』(2007??)にも出演していたようですネ。このドラマもめちゃくちゃ好きだったので毎週欠かさず観ていました。

全裸監督の時も思ったのですが、どんな年代のファッションもすごく自然に着こなしているのがとても印象深いです。本作では90年代のシブカジ系が中心??ですが、独自の世界観を持っていたかおりは型にはまらないことを好み他人と同じであることを拒む自身の思想の表現方法としてのファッションスタイルもある感じでした。勤め先もエキゾチック系の輸入雑貨店でインドに買い付けまで行くくらいのバイタリティがありましたから、狭い世界でいわゆる普通の生活をしていることに魅力を感じない時期だったのかもしれませんネ。

ちょっと煮え切らない感じがリアル

最後に偶然夜の新宿で再開した七瀬に強引にタクシーに乗せられて帰される場面は=観客(私)な気がして観ていました。七瀬は男性ですが職場が一緒の頃から佐藤のことが好きだったのでずっとつらい立場だったかもしれませんが、佐藤は全く気付いた様子はありません。ここで佐藤の中でずっとくすぶっているものが独りよがりな感じにも見えてきます。佐藤はまだ満たされていないかもしれませんが社会的にも経済的にも自立して会社では部下もいる立派な大人です。でも過去の自分に引きずられてなかなかひょいっと抜け出すきっかけが掴めないでいるような、はっきり言えば「煮え切らない」男。本当に「何もない」身(←私自身本当に"何もない"わけではないと思いたいですが理想の自分にはまだ程遠いです)からしたら「ウダウダ言ってないで大人になっちゃえよ」と背中を押したくなる感じだったりします。

とはいえかおりを「自分より好き」な存在として意識していた時の佐藤はかなり現実を見ていたと思います。転職先の番組テロップ作成の下請会社がまだ過渡期の頃の三好社長(萩原聖人)の「もう結婚しろよ 絶対食えるようにしてやるから」という言葉は経営者としてめちゃくちゃカッコよかったですね。それなのに佐藤の「一緒に住まない?」「親に挨拶とかもする」という提案を「フツー」と一蹴してしまったかおり自身がその割と直後に他の男性とフツーな生活を始めていたことに対しては佐藤が不憫。

君は大丈夫だよ おもしろいもん

自分に自信が持てないまま小説家への未練も断ち切れない佐藤に対して呪縛のような言葉だけ残して結局いちばん当人が嫌っていたと思われるフツーな生活をFacebookで公開しているというのは謎の行動感はあります。初デートや初エッチの時には常にちょっと自信なさげなウブな女の子だったのに、佐藤に対して気を許していくにつれて一気にサブカルこじらせ系女子っぽく世界に対しても斜に構えてやさぐれ??ていく様子は人間ぽくていかにもフツーな女性だったということに気付いたのは観ている側の私もかなり終盤の方でした。

そんな全ての思い出と対峙した後に、最後にマスクを付けて渋谷の交差点をまっすぐ歩いて行く佐藤の背中とともに「大人に…」という表題とともに含みを持たせて終わるところは(あんまり多用したくありませんが)非常に"えも"かったです。

* * *

個人的「燃え殻」さん⇒NEXT
huluオリジナル『あなたに聴かせたい歌があるんだ』

個人的「伊藤沙莉」さん⇒NEXT
映画『ちょっと思い出しただけ』

燃え殻さんも困惑する程に絶賛中

私にも"成仏していない言葉"が果たしてあるのか…

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