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映画『窮鼠はチーズの夢を見る』―結末を知れば知るほどリピートは切ない

2022年2月10日 

R15+指定によりちょっと過激です

先日配信にあがっていたので改めて観てしまいました、行定監督の『窮鼠はチーズの夢を見る』(2020)です。公開当時の記憶は正直あまりない(コロナ禍による延期と鬼滅バブルとR15+指定もあって??)のですが、公開後に配信レンタルで駆け足で観たことはありました。初鑑賞後の感想としては「攻めてるなぁ」と「おしゃれ」の2点が上限突破しました。

原作は『失恋ショコラティエ』『脳内ポイズンベリー』などでも有名な漫画家の水城せとなさんによる『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』を元として映画化。私自身BL(ボーイズラブ)系の作品は嗜好から外れているので、もちろん否定するわけでも毛嫌いするわけでもないのですが詳しくはないです。

以前バイト先の先輩にがっつりの腐女子が多くBLについていろいろ聞いていたところ「BLに出てくる穴はファンタジー」と言われて衝撃を受けた記憶があります。お尻の穴はお尻の穴ではなくファンタジー??…ファンタジー⁉…それはお尻の穴じゃ逆にだめなの⁉と疑問が頭を駆け巡りましたが、別の腐女子の友人(隠しているだけで意外とめちゃくちゃ多かったです)にも聞いてみたところBL自体も細分化されていてストーリー性や登場人物に対する共感等を重視するひともいれば肉体の描写を重視するひともいたり、あとは声優さんによるBLCDなんかも子守唄代わりにできるというプロもいて「奥が深いねー」なんて話をしていたのも青春の思い出であります。

さて、お尻の話はほどほどにしまして。

大伴恭一役は関ジャニ∞の大倉忠義さん、学生時代から大伴に片思いしていた今ヶ瀬渉役は成田凌さん。男性はこの2人が中心で女性キャストは大伴の元妻である知佳子(咲妃みゆ)、不倫相手の瑠璃子(小原徳子)、学生時代の元カノだった夏生(さとうほなみ)、同じ職場で婚約まで交わしたもののどこか暗雲立ち込めるたまき(吉田志織)…と人間関係は複雑ですが女性との関わり方は割とシンプル??というか相関関係で受け手が混乱しない程度に良い意味でドライな感じがしました。(途中敬称略)

あらすじ

学生時代から受け身の恋愛ばかりで、女性から言い寄られると断われず、妻がいながらも不倫を重ねていたサラリーマンの大伴恭一。ある日彼は、7年ぶりに大学時代の後輩・今ヶ瀬渉と再会する。興信所に勤める渉は、恭一の妻から夫の浮気調査を依頼されたというのだ。渉は、大学時代から抱いていた恭一への恋愛感情を告白し、不倫の証拠を恭一の妻に報告しない代わりに、自分と体の関係を持つよう恭一に取引を持ち掛けるのだが……。

―WOWOWより
https://www.wowow.co.jp/detail/172129

監督は『GO』(2001)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)などでも有名な行定勲監督。"窮鼠"の前には『ジムノペディに乱れる』(2016)で日活ロマンポルノ45周年記念【ロマンポルノ・リブート・プロジェクト】に参加されていました。こちらの作品も配信で観たのですが主演の板尾さんがすごい。同様に板尾さんが出演していた『私の奴隷になりなさい』(2012)も銀座シネパトスが閉館する頃に劇場で観たのですが、そちらもすごかったです。具体的には記しづらいので割愛しますが、敢えて主張したいのはR-18指定の映画とAVは別物です!!ということ。セカチューは当時学生でしたが「助けてください!!」の台詞と平井堅の『瞳をとじて』が先行してものすごい旋風だったのでさすがによく覚えています。

『ジムノペディに乱れる』予告編

2021年には「ロマンポルノ50周年記念プロジェクト」も始動

結末を思うと観られない

前回観賞した時は1回目は普通に、2回目はせっかくレンタルしているので…と気になったシーンとクレジット中心の観賞といった感じだったのですが、今回3度目にして途中からつらくなって一時停止してしまいました。そのシーンが、大伴(大倉忠義)が学生時代の元カノである夏生の前ではっきりと今ヶ瀬(成田凌)に対して「俺は お前選ぶわけにいかないよ」「普通の男には無理」と手痛く振った後のこと。ひとり傷付いた今ヶ瀬が大伴の部屋でフランス映画を観ているのですが「僕と寝てください」「これを拒まれたら もう二度と触らない」とかなりの賭けに出ます。それでも元カノとホテルに行くも今ヶ瀬に対する気持ちで困惑していたためか"勃たなかった"大伴は、彼の思いを受け入れる。ただ、これからの2人の行く末を知っていると特に今ヶ瀬にとってこの展開は非常に残酷だと感じてしまい視聴を停めてしまいました。「北京ダックが食べたい」と言って大伴の愛情を一身に受けるシーンでちょうど切りました。正直ちょっと泣きました。

夏生先輩の「わかってる? 女と男だよ」と大伴に詰め寄るシーンは気迫がありました。今の時代の価値観だったら(だからなんなのよ)とはねのけられる場合もありそうですが男女の恋愛ですら何もかも思い通りにはいかないのに、性別という壁(という表現が良いのかはわかりませんが)を踏み越えることは愛する方も愛される方もどれほど悩み苦しむものなのだろうかとつい考え込んでしまう。

監督曰く物語の核となるのは予告編にもある通り今ヶ瀬の言う「心底惚れるって 全てにおいて その人だけが例外になっちゃうってことなんですね」という台詞。彼の"例外"となってしまった大伴への思慕に心をかき乱される今ヶ瀬の心中は計り知れません。

劇中の映画が盛り上げる切なさ

前述の今ヶ瀬が観ていた映画はフランスの『オルフェ(原題:Orphee)』(1950)ですが、こういった世界観が好きな方はスピッツの『甘い手』(2000)という曲もおすすめ。曲中にソビエト映画『誓いの休暇(原題:Баллада о солдате)』(1959)の台詞が入っており抑えきれない恋慕のようなものが伝わってくる気がしてまいります。

モスフィルム(ロシア最大の映画撮影所)公式チャンネル
で無料配信されているので気になる方は是非

劇中の映画字幕(「これからする事を 理解しようとしないで」「この世界でも 理解し難いことなの」)の盛り上がりとともに2人は肉体関係を持つのですがどこか始まりでも終わりでもない別の次元に変化した気がした場面でした。

よく大伴役の大倉くんに対しても今ヶ瀬役の成田さんに対しても「退廃的」というイメージを持っているひと(関係者やファン問わず)が多い気がしていて私もそのひとりなのですが、その集大成(と表現するには2人とも若いのでまだ早いかもわかりませんが)的なレベルで「堕ちていく」という印象が耽美的で惹かれました。男性同士が肉体関係を持つことが「堕(堕落していく)」ではなくて、愛情や純粋な欲求に「堕ちていく(溺れていく)」という意味です。念のため補足をば…説明が下手ですみません。

退廃的[形動]道徳的にくずれて不健全なさま。デカダン。「退廃的な時代の風潮」―デジタル大辞泉より

辞書的にはあまり良い意味っぽくないですが表現の世界ではかなり誉め言葉だと思います。プロが感じる「退廃」とはいかがなものなのかちょっと気になりますネ。

お洒落な世界観に加わるリアル

劇中で今ヶ瀬が穿いている&干しているメンズパンツは有名なブランドで、特にゲイの方に人気といわれる高級パンツです。以前に新宿伊勢丹メンズ館の肌着売り場を通りかかったところオシャレなパンツが並んでいて衝撃を受けました。かなり浅いので「女性向け??」とすら思いましたが、残念ながら男性向け。個人的にはめちゃくちゃオシャレだと思うのですが、やはりセクシーすぎる(女性の感覚からすると常にTバック??みたいな)ようで、いわゆる「ノンケ」の男性はあまり好まないようです。実際にカタログを見るとわかるのですが、ほぼ出てます。あとは温泉などで穿いていってしまうとそういうサインになるかもしれないので、その辺りは臨機応変に。今ヶ瀬のパンツをどなたが決めたかはわからないのですが、さすが細部まで練ってるなぁと制作陣の本気を垣間見ました。

可能ならばレディース向けもお願いしたいクオリティ

また、劇中で大伴と今ヶ瀬が釣りをしている場所は赤坂御所の横を流れるお濠??にある有名な釣り堀(弁慶橋ボート場)です。非日常的なデザインにスッと現れたので良い意味で少し面喰らいました。春は桜が綺麗で真冬の夜は極寒です。暖かい季節になるといろいろな生き物も観察できます。クレジットで見れば他の撮影協力も載っていますし意外と「あれ、ここだったんだ」みたいなパターンもあるのですが、映画の流れでロケ地がパッと思い浮かぶことは意外と少ない(私の場合は)ので、見知っている場所が出るとちょっと嬉しい。

同性にモテるぜ自慢でもなんでもないですが女性同士でキスしてみたがったり何故かバイブを使いたがったりする友達はいました。私はイケメン風でもカワイイ系でも美女でもなく男性にもモテない地味女(涙)なので、何でだろうと当時は思いましたが映画みたいな真剣なそれではなくて何らかの好奇心が勝っていたのだと思います。女性のおっぱいをちょっと触らせてもらうのは好きなのですが(←自分が貧乳なので)性的指向(LGBの部分)ではレズビアンでもバイセクシュアルでもなく異性愛者の部類に入るのでやんわり話題を逸らしたことも。女性的な感覚??での美容やファッションに対して強いこだわりや自覚はかなり低い方で性自認(Tの部分)的には「生物学的に女性だから女性」というかもっと単純に「お×ん×んがないから女性」くらいに受け入れている気がします。

参考)
LGBTQ(性的マイノリティを表す総称)
L:レズビアン, lesbian(女性同性愛者)
G:ゲイ, gay(男性同性愛者)
B:バイセクシュアル, bisexual(両性愛者)
T:トランスジェンダー, transgender
Q:クエスチョニング, questioning / クイア, queer

社会的な役割では未成年の頃には既に男親が他界していたので「心身ともに自立するためには女性性だけでは生活できなかった」というのも本音です。されど平凡的な部類の自分でもそういう場面に遭遇することがあったので、夏生先輩のように異性とか同性とか「性」を前提として恋愛対象を他人が決め付けるのは違和感が出る時代になったなぁなどとも観ながら思っていました。だからこそ夏生の台詞は強烈ではありました。でもこの映画ではLGBTQの難しい議論を超えて美しく儚い恋愛模様がズバンと脳天に直撃してきたのですごいなぁと改めて感じます。

納得な布陣のキャスティング

やはりどうしてもいけめん2人がすっぽんぽんでいることが多い映画なのでお顔とかお尻とかそういうところに目が行きがちではあるのですが、大伴に振り回された挙句の果てに夜明けの海辺に佇む今ヶ瀬の「本当に好きだったなー!!」という終盤に出る内から湧き上がる本音は悲しい。最終的に大伴からの提言で元サヤに戻ったかと思いきや今ヶ瀬の突然の行動は初見では意外でした。それでも他の男性に抱かれている最中にわんわんと泣き出す今ヶ瀬の姿は本当に切なかったですね。あれはそこまでの物語の流れあってこそガツンとくるカットなのですが、成田凌さんは劇団に入っていたとか特別に誰か演出家や監督にめちゃくちゃしごかれていたとかそういう経緯はなさそうなのに(←違ったらすみません)お芝居が上手い。さすがに演技や演出に関してド素人の視聴者側でも「この役者さんの言葉や表情はなんか自分に落ちてこないな」というのはわかるので、映像には出てこない裏方のひとたちがどんなに素晴らしくても演者の台詞ひとつで作品自体が台無しになるものだなと悟った時には芸事はシビアな世界だと思いました。

大伴役の大倉くん(もはやくん呼び)は自分と年齢がかなり近いという点や昔からジャニーズとして知っているというバイアスもあってか安心して観ていました。さすがに女性とのリアルな濡れ場なんかは「最近のジャニーズってこういうの許すのかぁ」とメタ的に見てしまいましたが、そこからさらに男性同士のセックス描写に尺を取ったのもすごいなと表現の幅が拡がっていくことに感動すら覚えました。大倉くんと比べると成田凌さんは年齢も10歳くらい年下の若手で、キャラクター設定がしっかりしているとはいえ喰らいついていかないと難しい役どころではないかと勝手に心配するも劇中の存在感は抜群。他の男に抱かれて号泣する今ヶ瀬の気持ちも知らずひとりいつもの部屋で今ヶ瀬を待ち続ける大伴の姿には、人間の脆さというか儚さみたいな耽美的なものを感じたような気がします。後味的には悪いはずなのに、またどこかで巡り合って欲しいという微かな希望を宿すも刹那的な作品でありました。

参考引用:
LGBTについて考えよう - 法務省 (https://www.moj.go.jp/JINKEN/LGBT/index.html) 2022.2.10
LGBTQとは | 東京レインボープライド2022 (https://tokyorainbowpride.com/lgbt/) 2022.2.10

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