新宿のホームレスじいさん(仮)が今の若者に伝えたいことを聞いてきたよ
創作ぽいですが実話です
とある日の通院の帰りのこと。あとは帰るだけだったが少々疲れたので新宿某所で某清涼飲料水を飲んで少し休んでいたところ、前方から不審な男性の老人がよろよろと歩いてきた。杖を突いて段ボール箱を積んだ荷物を引いていたので私は軽く避けたが、何やら私に話しかけてきているようだ。
「あそこで女が金もらってんだ。数万だよ?」
要はその辺で女性がパパ活か何かをしていた取引現場を目撃したらしく改めて新宿という街のカオスさを私に呟いた…というだけである。
他に特にこれといったきっかけはなく話を聞いて適当に相槌を打っているだけだったが、おじいさんの話は止まらない。目は少し濁っていたので白内障か何かかもしれない。目やにが緑色なのが気になったので後で調べたところ慢性的な細菌性結膜炎のような状態か。いわゆるホームレスのようだが、頼むからお風呂に入ってくれという感じは全くなく清潔感はあったので最初は笹塚辺りの近所に住むじいさんかと思っていた。強いて言うなれば酒臭い。
とにかく酔っ払いの老人の話は突拍子もない。自称、萩○健一と安○力也と北○武と知り合いらしい。若い頃は浅草のダンスホールでひと暴れしたと言う。中○三郎の名前も出していたが私にはよくわからなかった。
景気の良い頃は金貸しをしていて、ヤクザ相手に金を貸していた。「え、逆じゃないの?」と思ったが、返せないと言う相手には「鍵をよこせ」と言ってベンツを押収したという。本当かよ。
キックボクシングの経験があるので若い頃は腕っぷし??は強かったらしいが、今では杖を付いたヨボヨボのおじいさん。渋谷や原宿など若者の街に行くと「きたねぇじじいなんか殴ったって良いんだ」という思想を持った加減を知らない若者にボコられる危険性があるらしいので行かない。
新宿という街はおもしろいところだとしきりに言うので、私の父親はゴールデン街(昔の新宿区三光町)で育ったんだよと言ったら「はえー仕切ってたの!」とびっくりしていた。住んでいたのは育ちの未成年の頃なので仕切っていたわけではない。
「私の父親は浅草の三社祭とかお祭りが好きでね、よく行ってたのよ。」
「はーあんたの父さんはね、情に厚い男だよ。」
母からも聞いたことのなかった言葉。その場ではすっとぼけたが内心は嬉しかった。父のことを褒めてくれる人は生前も死後もほとんどいなかったからだ。私の父の短所でもあり長所を評価してくれたのは私の母方の祖父くらいだった。
時間も時間だったので程度のいいところで切り上げて足早に帰宅しようと思っていたが、ついこの言葉もあって老人の与太話に付き合ってしまった。

私の祖父は70歳を過ぎても紳士でかっこいい私のおじいちゃんだった。私が都内にある母の実家に行くと、禿げた頭を整えて帽子をかぶり何故かスーツを着る。足が悪かったわけではないがステッキを持ってポマードのかほりをさせておめかしする。そして私を連れ出すと徒歩5分もかからない近くの露天で磯部焼きのお団子を1本買ってくれる。私はそれが大好物だったが、今考えると「パフェとかあんみつとかもっと豪華なのでも良くないか」とも思う。4人姉妹の父親でもあった祖父はそのためか清潔感があって女性の扱いも紳士なおしゃれさんだった。
お酒は得意ではなかったが、兵隊として戦争を経験しながらも高度経済成長期を支え4人の娘を嫁に出した祖父には4人の義理の息子ができたわけだが「話をしても面白くない」と嘆いていたらしい。唯一私の父と交わすお酒は楽しかったらしいとは伝え聞いたが、本人から聞いたわけでもないので確証はない。今の時代では古い考えではあるが、やはり跡継ぎが欲しかった祖父は男の子を切望したようだが4番目に生まれたのは女の子(母)だった。祖父は紳士なのでそんなことで愚痴や文句を言ったりは決してしなかったが、孫に男の子が生まれると養子に取りたがったらしい。そういった積み重ねはやはり女性として生まれてしまった私の母のアイデンティティを傷つけた。
「私のお母さんはね、コロナが怖くて家にこもってるよ。」
「はー、可哀想に。」
「あんたお母さん死んだらね、落ち込むよ。」
「父親がもう死んでるし、母親も高齢だからね。」
「いや、肉親が死ぬっていうのはね、本当につらいんだ。本当だよ?」
おじいさんの口癖は「いやほんとに」。
そうこうしていると若い会社員風の女性が近づいてきて「大丈夫ですか?」と声を掛けられてしまった。どうやら私が不審なじじいに絡まれて困っていると思い割って入ってくれたのだろう。しかし私は「あ、大丈夫です。」と言って浮浪者との雑談に戻ろうとしてしまったため、女性は足早にその場を去ってしまった。なんだか申し訳なかった。
しかし、それがあってから急に周囲を行き交う人の目が異様に気になるようになった。ちらっと何かを見る目ではなく明らかに不審なものを確認しようと注視してくる目。みなマスクをしているので目線だけが強調されて正直とても怖かった。ホームレス風のおじいさんと話しているというだけでこんなにも道行くひとに不審人物扱いされるものなのか?とすら思ったか、緊急事態宣言下の新宿においてマスクもせずに大声で喋っているじじいがいればそれはそう見られても仕方ない。
「おとうさんマスクしてないからだよ。今はそういうひと目立っちゃうんだから。」
「あのね、人の目なんて気にしたらダメなんだよ。」
「俺なんか落ちるとこまで落ちてんだから、人の目なんか気になんねーんだ。」
「でも健康は大事だよ?」
「そう、健康は本当に大事。(矛盾)」
私としてもマスクはして欲しかったが「もう知らね」という感じだった。
「田舎もんは心のシャッター閉じちゃってんだよ。話してもつまんねーの。」
唐突に地方出身者はATフィールドが強いと言い出す。
「それ東京は怖い所だと思ってるから警戒してるんじゃない?(そりゃ突然知らない人に絡まれたら出身地関係なく心のシャッターは閉じる)」
「あ、そっかー。(素直)」
「今の若いひとたちはよ、おとなしいんだよな。まだ若いんだからもっといろいろやりゃあ良いんだ。」
今度は若者へのおせっかいなエール。
「おとうさんの時とは景気も時代も違うしね、今はコロナとかもあるから経済的に安定志向にもなるよ。」
「あぁ、そっかー。(素直)」
仕事を探していたこともあるらしいが、持病があることを面接官に悟られるとすぐに対応が変わるので「あ、これはだめだな」というのがわかるらしい。それは私も同じだった。履歴書にどうしても不自然なブランクができてしまうのでバカ正直に「体調を崩して…」と言おうものなら現代流行の精神系だろうと勘繰られて(実際当たってはいるが)「電話は取れますか?」「人と話せますか?」といった失礼な質問も飛んでくる。「できなかったら面接まできてねーよ!」とはおくびにも出せず、すごすごと家路につき案の定不採用の通知を受ける。

私は長年不思議に思っていた疑問を投げかけた。
「外で暮らしてるひとは真冬はどうするの?今はだいぶ暖かくはなってきたけど、つらいでしょ。」
そうすると良い質問だとばかりに答えてくれた。ホームレスといえば「段ボール」だが、冬場はこの段ボールとホッカイロが大活躍するという。10枚入りのカイロをだいたい200円前後で買ってくると、全身に張り付けて段ボールで覆う。そうすると冬の大寒波でもサウナのように熱くなってしのげるそうだ。凍死するホームレスなんていうニュースも見たことがあるような気がするが、多分プロのホームレスは越冬など慣れているのだろう。そのため低温やけどすることもよくあるらしい。
いつもどこにいるの?と聞いたら「この辺にいるよ」と言う。
「帰る家はあるんだよ。親が残した土地と家があっからよ。」
「その家には帰らないの?」
「いろいろ事情があんの!」
既に21時近いのに終始酒臭く、「この後どうするの?」と聞いたら「その辺で酒(多分ワンカップ系)買って一杯やって寝るんだ」と言う。1日に5杯は飲むらしい。健康のためにお酒やめなよと言っても笑って聞かない。今日も明日も明後日も朝から晩まで酒を飲み、街をうろうろしながら道ゆく人に話しかけ、その辺で適当に眠るのだろう。
私はこの老人のようになりたいとは思わなかったが、個人的に嫌いだ、社会のためにも排斥すべきだとは思わなかった。逆に間違った正義感や悪意を持ったひとに何かされないか心配ではある。ただ昼間からお酒ばかり飲んでいるのが良くないのはわかって欲しかった。それくらいである。
追記)
母に話したら激怒されるかと思ったが理解を示してくれた。ただ衛生面を考えるとコロナは心配だとは言っていたが、幸いコロナも含め何か病気にかかるということは一切なかったのでこれは強調したい。ノーマスクのホームレスじいさんと小一時間外くらい開けた場所で話をしたくらいでは感染などないのだ。とはいえ結果論なので反省はしている。こういった懸念さえなければまた話がしたいと思った。
2021/8追記)
少々気になる記事があった。さすが??BBCといった感じの切り口で社会問題は他国からの視点も大事だなと教えられる。正直五輪が始まって以降「あれ、こんな所に!?」というホームレスおじさんが増えた気がする。もしかしたら定位置にいられなくなって(暑さの影響もあるかもしれないが)慣れない場所に移動してきたのかもしれない。かといって一時の休憩ならまだしも昼夜問わず居座って良いヨという場所でもない。できれば普通に暮らしてほしいがその生活が好きなひともいる。再開発やインバウンド需要を見込んだ地域活性化の度に浮上しては有耶無耶になるしかないこの問題。なかなか難しいとしか今は言えない。
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