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映画『ニワトリ☆フェニックス』―コロナ禍とアフターコロナ時代を生きるフーテン映画の誕生

2022年5月31日 

ややネタバレあります

以前に当ブログでも感想の記事を書かせていただいた(勝手に書きました)『ニワトリ★スター』(2018)を手掛けたかなた狼監督の新作『ニワトリ☆フェニックス』を劇場で観賞してまいりました。

あらすじ

幼なじみの草太(井浦新)と楽人(成田凌)は、いるはずもない火の鳥を探す旅に出た。 大人になり、それぞれの人生に漂う暗い影。 何かから “少しだけ逃げたかった”束の間の逃避行。 そして物語りと並行する謎の花嫁(紗羅マリー)の存在。 裏社会の追手、寂れた妖怪スナック。 SM城の一味や、農業ラッパー、自転車旅の青年、悟りを説く僧侶、誰もいない映画館の館長などなど。 あてもなき珍道中で草太と楽人が出逢う様々な登場人物。 旅に散りばめられた人生のヒントや彩り。果たして主人公達が探す火の鳥とは??

―公式サイトより

前作との違い

本作は続編ではなく再構築という形で製作されたものですが、前作と全く繋がりがないということもなかったので前作の世界観にハマった側としては比較してしまう点はどうしてもありました。ただ言えるのは、前回と違って伏線を考えたり変に考察しようとしたり深く推察しようと思って観る必要がないという点。

あえて違いを挙げるなら草太と楽人の周囲で起こるさまざまな"事件"。☆フェニックスでは、農業ラップ事件、妖魔殿記憶喪失事件、チャンピオン事件。★スターでは、チャンピオン事件、アナとポリス事件、FUS/ムッキー/菊熊(事件名なし)のエピソードなど愉快で超個性的な仲間たちとともに物語は進んでいきます。ファンにとってたまらないのは「チャンピオーン!!」の事件が再構築後も健在だったこと。やっぱりLiLiCoさん素敵です。前作が苦手という方でも前作の「チャンピオン事件」だけは観てほしい。

@niwatori_phoenix 映画『ニワトリ☆フェニックス』#チャンピオン #ニワトリフェニックス #ニワトリ☆フェニックス #なにかから少しだけ逃げたかった #笑って泣いてまた笑う #映画 #メイキング #井浦新 #成田凌 #LiLiCo ♬ オリジナル楽曲 - 映画『ニワトリ☆フェニックス』公式

今作も前作と同様クラウドファンディング(『ニワトリ☆フェニックス』応援プロジェクト)が募られました。私も微力ながら支援させていただきまして、リターン品(ムビチケ、狼組オリジナル缶バッチ、お礼のお手紙など)も頂戴しました。クラウドファンディング自体を利用したのは多分はじめてだと思うのですが、少しでも狼組の一員として参加させていただけたのは非常に貴重な経験でありました。

388人がパートナーになり8,957,208円を集めフィニッシュ!!

私は単館(ミニシアター)ですとテアトル新宿やヒューマントラストシネマ渋谷などのテアトルシネマグループ系列に行くことが何故か多いのですが、今回の上映で初めて日本初導入となる音響システム「odessa」が採用されている渋谷のシアター1にて観賞。上映形態が4種類あるとのことですが、本作は「odessa vol+」での上映でした。以前に他のシアタールームで観賞した時と比べると音の臨場感が桁違いでした。作品にもよると思いますが稀に映像の色彩感や光の明滅が激しかったりするとちょっと酔いそう。

odessa vol+
さらに音を堪能するためにボリュームをプラス!耳だけではなく、全身で体感していただきます。
音に包まれる新感覚音響体験をぜひお楽しみください。

当日は平日の夜ということもあり、渋谷という土地柄ではありますが他のプログラムも含めて映画が趣味な雰囲気の中年層の男性や会社帰りのサラリーマンの方が多かった印象です。シネコン的なルール(←あくまで感覚です)に縛られることなく割と自由に観られました。同じ列に座っていた男性はよく笑っておられました。

今作での第一印象としてはロケ地の素晴らしさもありますが映像表現がとても綺麗。音楽もマッチしていてお洒落な感じでした。あとは「今のスマホってこんなに画質良く撮れるんだなあ」と改めて技術の進化を実感。ドキュメンタリーぽかったりアドリブぽかったり、前作は緊張感が漂うシーンが多かったですがかなり自然体でのびのびした雰囲気を感じました。

全体通してガチガチのお芝居というよりはインタビュー映像のような表現になっている箇所も多いように感じました。それでもフィクションとドキュメンタリーとノンフィクションとアニメとスマホを通した動画とコントと…とにかくいろいろ混ぜても全然変じゃない。むしろ変じゃない方が違和感がある。いわゆる正統派の物語はさんざん他の監督も撮っているので、この監督にはこの監督にしかできない手法で突っ走って欲しいと思っています。

八田役の津田寛治さんのお言葉(07:40~頃)

たぶんやっぱり監督自身が
あまりその…
日本映画界にこう…まみれて汚れていない

このコメントの後には日本映画界に対するフォローもありながら、どんな業界においても昔ながらの謎の伝統や慣習はつきもの。それを打ち破れる監督の魅力について語ってくださっていました。津田寛治さん気さくな方で素敵です。

特典漫画『ニワトリロックンロール』は必読

映画館での初週特典なので非売品ですが、再構築(パラレルワールド)とはいえ前作『ニワトリ★スター』との因果関係がどうしても気になると思ってしまうファンには特に必読の1冊です。

前作では草太の父親役だった奥田瑛二さんが出演するシーンと台詞の部分がいちばん涙腺にきました。ここ数年で劇場内でいちばん泣いた映画が『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021/庵野秀明監督)なのでちょっと涙する感性はバグっている気はします。なにせ小学生の頃から25年追っているコンテンツだったので感動もひとしお。それはともかくとして今回は草太と楽人が偶然訪れた映画館で上映されていた作品のワンシーンに出てくる俳優(夜桜龍生)役なのですが、印象的だったのは草太が何かに気付いたかのように映画に没頭するところ。夜桜龍生の語りかけるような台詞に涙したところを楽人にからかわれるのですが、前作では父親だったという設定が念頭にあると「この世界に再構築してくれたのは親父なのではないか」という気付きを与えるようなシーンにもなっていて、あれやこれやと考察するモノ好きにはたまらん演出です。

観賞後に帰宅してから初週特典だった『ニワトリロックンロール』を読んだところ、ストーリーは『ニワトリスター』と同様なのですが楽人が亡くなってからの草太と父親の会話の途中に「神」(←もちろん鳥肌実さん)が舞い降りて願いを叶えてくれるという追加エピソードがありました。

楽人という友達を
大切な人らに逢わせてあげたいです

神は草太の願いの代償に、草太の運命や出逢いが変わってしまうかもしれないと警告します。そこに居合わせた草太の父はそれを自分の願いとして叶えてほしいとなかば割って入ります。

オトンにも逢いたい…
まあ大丈夫や オレはどっかにいてる

これはやられました。確かに「どっかにいて」ましたし草太のリアクション的に父親が神にお願いして今の人生を与えてくれた(≒再構築してくれた)のを何となく感じ取っているようにも見えましたし、前作を知っている観客からすると前作では一緒にお好み焼き屋を切り盛りする父親だったのに今作では映画作品の中の俳優という手の届かない存在として現れたことも少々切ない。

呆気ないほどに衝撃だったラスト

さて、徐々に不穏な空気が流れてきた話の中でこの展開では最後はほぼ2人とも生きてはいないかもしれないな…と思ったら普通に生きておりましてリアルに「なんでやねん」となりました。更にそんなに老けてもいない楽人が草太の隣にいてもっと「なんでやねん!!」となりました。こんなことはもちろん言いたくないというか言うべきではないですが「話の流れ的に死んどいてくれ」とすら思うほどにちょっとウルッときた自分がなんか恥ずかしい。

私にとっては父の命日が近かったため「なぜ今このタイミングで」としんみり。私に対しての間接的な最期の言葉は「あいつの花嫁姿を見る頃には俺はもう」ですが、多分生きていたとしても花嫁姿は見ることなく死ぬと思います。ごめんね…。

冒頭で星野月海と呼ばれていたので楽人と何らかの関係があるのはわかりましたがそっち⁉という驚き。高良健吾の父親役が成田凌というのは年齢的にかなり無理はあるとは思いましたが前作を知っているとかなり良かったです。高良健吾が言うなら父さんなんだなという謎の説得力。最後は『くれなずめ』(2021/松居大悟監督)の時のようなわちゃわちゃ感がありましたが、前作が楽人にとってはかなりつらい結末でしたので終わり良ければ総て良し。井浦新(当時はARATA)と高良健吾の2ショットは『蛇にピアス』(2008/蜷川幸雄監督)も思い出しましたが役柄や関係性は全く別物です。

果たしてそんな簡単にヤクザから逃げ切れるものなのだろうかと思ったら、前作では大暴れした後に神に裁かれた八田がめちゃくちゃ改心??してました。多分そんな転職みたいな感覚で組長はやめられない気もしますが暴力団よりは農業の方が絶対に良いです。

人情喜劇へ転生した不死鳥

前作は「ラブ・バイオレンス・ファンタジー」ということで監督曰く"フラストレーションや怒り"から生まれた「ゲロ」というほどに暴力性に満ちたものではありましたが、今作は一転してチルアウトなロードムービーに仕上がっておりました。

こちらのインタビューで映画『男はつらいよ』シリーズみたいな感じでやりたいという言及がありますが、全く同意であります。実際に『男はつらいよ』のスタートはフジテレビ系列のテレビドラマシリーズ(1968-1969)からで、主人公である寅さんは最終回で奄美大島にハブ狩りに出かけたところハブに噛まれて死んでいます。しかし悲しすぎる結末により視聴者からの猛抗議を受けた結果、映画『男はつらいよ』(1969/山田洋次監督)で見事に生き返り妹のさくらの結婚式で親族代表としてユーモアと人情をまじえて取り仕切っている名シーンは涙なしには観られません。博の父親役の志村喬さんがまた渋い。

そして寅さんもやはり伊勢志摩(賢島)に行っておりました。第39作目にあたる『男はつらいよ 寅次郎物語』(1987)です。

伊勢志摩(いせしま)は、三重県南東部にある地域である。南勢とほぼ同じ地域を指すが、伊勢志摩の方が観光地の名称としてよりよく用いられるほか、南勢に含まれる大紀町が伊勢志摩からは除外される傾向にある。

寅さんの友人である"般若の政"の息子(まだ小学生くらい)が福島県郡山から柴又まで寅さんを訪ねにやってきます。蒸発した母を探すすべもなく「俺が死んだら寅さんのとこに行け」という父の遺言だけが頼りの秀吉が彼の名前。母であるふで(五月みどり)を探しに和歌山県、奈良県吉野、そして母が世話になっている三重県伊勢志摩にある賢島の「松井眞珠店」と長い旅に出ます。ラストは寅さんの男気に泣けます。名作なのでまだのひとは是非。

寅さんも周辺で啖呵売をしていた「夫婦岩」

暫定でいちばん好きなのは第18作目『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』(1976)です。マドンナの京マチ子さんがとても可愛らしい。普通に号泣しました。

映画本編とはまた別の感想

舞台挨拶(特別興行)では成田凌さんがお目当てなのか若くて可愛らしい感じの女性が多い印象を受けますが、通常興行はかなり渋い客層だと思いました。実際おおきな看板を見て「成田凌のやつだ!!」と叫んでいる若い女性もいたので、イケメン俳優ファンの女性と映画好きの老若男女で認知度が偏っている感はありました。

"厳密に言うと着火したのは新"と仰る監督

かくいう私も注目している若手俳優である成田凌さんが、かつて青春時代に感性をビシビシに突かれたスマイル(←映画『ピンポン』(2002/曽利文彦監督)の時のARATA)と共演していることを発端に前作を観たので、映画鑑賞のきっかけをとやかく言うつもりは毛頭ありません。

"Instagramでの作品から火が着いたのは監督"
と仰る井浦新さん

ただめちゃくちゃ本音を言うと「成田凌かっこEだけでなく作品全体というかもっとこう俯瞰的というか包括的(とりあえず難しい言葉的)に興味を持とうよ」とは思う。なぜなら俳優さんから繋がって知らないことや興味がなかったことに触れるようになることで世界観とか価値観みたいなものが拡がっていくせっかくの機会を逃していると思ってしまうのです。映画でイケメン俳優を拝んでいるだけでは長編イメージビデオみたいなものと変わらなくなってしまう気もします。もちろん「誰さん素敵、かっこいい、付き合いたい!!、結婚して!!」と夢中になるのは全然悪いことではないですし(限度はありますが)私もそういうところから好きになっている物事はたくさんあるので偉そうに講釈垂れる身分では本当にないのですが、その誰かさんだけで終わらずに更に知見を広めていくと「誰々さんを知ったおかげで新しいあれこれに出会えた」という風に知識や見識が深まってもっと作品を楽しむことができる。それが娯楽、ひいては総合的な芸術や音楽などに触れることの興味深い点だと思っています。人物や作品などから枝分かれしてぶわっと自分の中で世界が拡大していくのは素晴らしいことであり、これこそが生きることの楽しさや豊かさのひとつと私は捉えています。

私自身、それこそ27歳くらいの頃に(詳しくはHuluオリジナルドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(2022/萩原健太郎監督)を)番組制作会社の末端事務員として働いていた経験があります。いちばん重要な出演者や著作物などの権利者の許可、そしてプロデューサーやディレクターなど制作の管理や指揮を執る人間のほかに経理や総務に美術や大道具などの取引先の技術さん…とひとつの成果物に携わる人間はとにかく数えきれないくらいいます。下請けや孫請けが当たり前の業界なので傾向としては顕著です。私はあくまで事務アシなので基本はパソコンでの事務処理や電話の取り次ぎにその他庶務や雑務、当番制でお茶の用意などもしました。でも私たちのような非正規雇用の契約の人間では超間接的に作品に関与していてもそれを証明する術もありません。

当時は「そういうものだ」と思って普通に仕事していましたし私自身も給与以外は特に不満はありませんでしたが、やはり脚光を浴びるのは主役級の出演者で裏方は監督ですら認知度が上がらないこともあります。せっかく「映画」という作品に触れているなら出演者の他にもこんなにたくさんのひとが携わっているんだということも注目してほしい(←謎の上から目線ですが)と自身の経験から感じるようにはなりました。社会全体も同様で目に見えないところや街が寝ている時間に働いて支えてくれているひとがいるからこそ成り立っているのと同じですネ。

なので作品を観る時には特定の人物でストップすることなくその先にあるものを、もっと更に向こう側の世界や繋がりを発見したいと思うのです(←無論プライベートを知りたいという意味ではありません)。その特定の人物に注視しすぎて共演者や関係者をないがしろにするような思考回路に陥ってしまうのもとてももったいない。同時に自身の品位も落としかねないコメントを直情的にネットに晒してしまうのも損だと思います。

それでも日々の学業や仕事や家事や育児などの生活に追われてそのストレスを癒やしてくれる存在として「誰か」を追いかけることを否定というか"なんか違う"と他者に指摘されるものでもないと思います。私も小さい頃は「何曜日まで頑張ればこれがある」という風に何とか生きながらえている時もありましたし(今は健康に生きられれば満足)、結局「ひとそれぞれだよね」というところに帰すものでしかないですね。ひとの趣味にとやかく難癖つける方が悪趣味です。ただ、もっと視野を広げるともっとおもしろいことがあると思うよという超要らぬお節介を書きました。

私もこうして自身のブログでクソ生意気に映画の感想などを述べていますが、もちろん評論家を気取りたいわけではなくて、せっかくひとつの作品を通して自分の知らない世界と通じたのだから文章で体系化して残しておきたかったというのが始まりです。よくインプットとアウトプットと言いますが、そこまでおおげさなものではなくてもちょっと似ているのかもしれません。

何が正義で何が正解なのか、情報過多な世の中によって自身の価値観や自尊心を揺さぶられやすい不安で不穏な毎日の中で「こういう考え方もありなんじゃない??」と提案してくれるのが今の私にとっての『映画』です。

☆ ★ ☆

どこかにいてる

参考引用:
©2022映画「ニワトリ☆フェニックス」製作委員会 東風孝広(漫画)/かなた狼(原作)『ニワトリロックンロール』
ヒューマントラストシネマ渋谷 トピックス(2021年) odessa|日本初導入の音響システムで"音"に包まれる音響体験を(https://ttcg.jp/human_shibuya/topics/2021/10010000_15971.html)2022.5.31
男はつらいよ ロケーション 伊勢・志摩(二見浦)(https://www.cinemaclassics.jp/tora-san/html/tora-san/location/438/)2022.5.31

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