劇場で楽しむ音楽ライブ『SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE” THE MOVIE』
コロナ禍になる前から「劇場でライブビューイング」というシステムと申しますか文化のようなものは徐々に根付いてきていましたが、ここにきて現地ではなく地域の映画館や自宅のネット配信で音楽ライブや演劇などを楽しむという選択肢がより一層ポピュラーなものになった気がします。特にネット配信は他の方法と比べるとリーズナブルなので、視聴環境によって臨場感に差は出ますがチケット争奪戦や交通費や場合によっては宿泊費などで敷居が高くなりがちなライブ参戦よりは気軽に鑑賞できるのでネット社会も悪いことばかりではないなぁと再認識させられます。
ということで先月『SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE” THE MOVIE』を鑑賞してまいりました。以前に『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』(2015年)を観に行った新宿バルト9にスピッツが凱旋です。
ちょうどいちばんライブ等に対する規制が強かった頃(これからまたどうなるかは正直わかりませんが)だったかにYouTubeで期間限定で無料配信していました。公開当時は限定パンフレットやクリアファイルも販売していて、集客もすごかったので劇場内の売店ではなく係のひとが臨時の専用卓を作って爆速でお客さんをさばいていました。
当時の前売券は今でも貴重な記念品
派手すぎず地味すぎず変わらずエモい構図
コロナ禍になる前(2019年12月)に調布(武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ)でのライブ『SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 "MIKKE"』には行っておりました。改めて調べてみると2020年1月の大阪城ホールでの公演を最後に3月以降の公演は度重なる延期の末に中止。これは中心となるアーティスト側はもちろんのこと、お客さんだけでなく会場の確保やグッズ制作や設営販売スタッフの手配等に奔走する主催者側のひとも急転直下の驚天動地に頭を抱えたことかと思います。
幸運にもコロナ禍直前に滑り込みで密と声援が許される音楽ライブに参加できたわけですが、当日は体調が悪く(コロナではなく持病のパニック症で)かなりギリギリな状態で会場に入ったので後から「やっぱり買えば良かったかなあ」と少々後悔したライブグッズを買うためだけに同月の横浜アリーナに足を運んでしまったりも。
よく覚えているのはピンバッチのガチャガチャを求めて長蛇の列を成していたこと。私は結成30周年記念ライブ(30/50)の時に母と他県まで遠征してしまったのですが、さすがに呆れだす母を横目に缶バッチガチャを回しまくっていたのでその時は期間限定のひざかけだけ購入してホクホクで帰宅した記憶があります。30/50に関しては当時は「遠征しすぎじゃね??」と親子で頭を捻っていましたが、コロナ禍になってライブや旅行が難しくなってからというもの高齢の母は「あの時行ってなかったら今頃発狂している」と呟いております。
さて話を現在に戻しますと、2020年には言うまでもないパンデミックにより不特定多数のひとびとが一斉に集合するイベントはほぼ不可能となってしまいました。そのことに心を痛めたり、職業人として自身の在り方や存在意義に問いを投げかけたり、やり場のない憤りを隠せなかったりするアーティストの悲痛な訴えは今でも忘れられません。天災や景気後退によって真っ先に消費が削られるのはやはり「娯楽」で、食料品や日用品や医療福祉介護サービスなど生きるために絶対に必要なものが優先される≒娯楽と呼ばれるものは生きるために絶対に必要ではないのかという逆説的な問いが生まれるような気がして今まで音楽や映画などに心を支えられてきた身としてはおおげさかもしれませんが身を切られるような思いではありました。
今回上映された公演は2021年6月19日にぴあアリーナMM(横浜)で収録されたもの。2020年7月10日に開業したばかりの新しい箱で、みなとみらいに位置するオシャンティーで近未来的な施設。最大収容人数も12,141人と横アリにも負けない規模です。
最新の映画館の音響はとにかく臨場感が半端ない。映像もさることながら演奏や歌声は前方(180度くらい)から聴こえてくるのですが、拍手になるとまるで自身も会場にいるかのように360度で聞こえてくる気がするレベル。私自身も青い時期に5.1chサラウンドシステムに憧れて初めてまとまったお給料を手にした時に調子に乗ってホームシアターを構築してしまったのですが、六畳間(しかも木造和室で騒音チェック必須)で無理やり環境を作るのとはやはり全く違います。
当公演から音響の関係でドラムセットの周囲にアクリル板を張るようにしたらしいのですが、偶然にもコロナ禍の対策方法とかぶってしまい﨑山さんが「飛沫対策じゃなくて音響用」と説明してくれていたのが興味深かったです。音楽ド素人としては「(どうして音響効果のために衝立が必要なのかしら)」とやはり疑問に思いまして調べてみたところ、別に特段珍しいものでも近年急に始まった技術でもなく「ドラム用アクリル遮音パネル」としてネットでも販売していました。どうやらドラムの音はどうしてもでかい!!ため、ボーカルマイクや他の楽器にも影響してくるようで場合によっては遮音性を高めた方がパフォーマンスやサウンド的にも向上するようです。勉強になります。
国産よりは海外輸入のものが多いようです
やはり変わらず『8823』(2000)のパフォーマンスはカッコイイ!!サビに入る直前の草野さんのピックスクラッチ(ギュイーン)はいつ見ても真似したくなります。エレキギターは触ったことすらありませんが。そしてフロントマンMCの名言&迷言も健在。「どこに属しているのか、属したらいいのかよくわからないバンド」と自虐風自己紹介かと思えば「立っているひとも、座っているひとも、体調の悪いひとも自由に楽しんでね」と優しいゆっくりバンドに。
個人的に注目していたのが映画のエンドロールに使用される楽曲。前回の横浜サンセットの時には『エンドロールには早すぎる』(2013)だったのですが、今回は『初夏の日』(2019)。この曲は歌詞が悲しいんです。ちょっと『田舎の生活』(1992)と似たような切なさがありますね。
そんな夢を見てるだけさ 昨日も今日も明日も
時が流れるのは しょうがないな
全体通して最高でしたが、いちばんグッときたのは最後のMCの時にリーダー(田村さん)が「音楽が悪者みたいな…」という表現で捻り出すように現状での思いを吐露していた時。立場としては会場に集客をしなければばらない(=感染力が高い環境を生み出さざるを得ない)バンドとしての胸中を語った時でした。ぴあアリーナMMでも間隔を空けるように観客を入れたために実際に収容出来る人数の半分程度だったそうで、草野さんも「このままだと俺らも困っちゃうからね」と現実的な相槌を入れていました。
結成30周年ライブの最終日の時もそうでしたが(注釈付き指定席があったので遠征してました)、田村リーダーはとにかく真面目。音楽やバンドの社会的な存在意義だとか難しいことはある種いちばん考えていなさそう(←失礼すみません)なのに、実はとっても熱いひと。90年代から邦楽を牽引してきた大ベテランでもコロナ禍という非常事態を機に考えさせられることもあるんだなあと思いました。
全てが元に戻らないかもしれないけれど頑張るという言葉は音楽だけにとどまらない人類のテーマだなと深く頷くしかありません。
三輪さんの「誰かが"幸せは途切れながらも続くのです"と言っていましたが…」とファンの間でも人気な『スピカ』(1998)の歌詞を引用して話していたのも粋だなと感じました。
一方で、TBS「news23」に楽曲『紫の夜を越えて』(2021)を提供したということでインタビューに応じたフロントマン草野さんは「バンドができれば"楓"や"ロビンソン"で営業してもいいし…」という割とドライな考え方を披露。90年代だけでも相当稼いでいるでしょうから、それも『あり』だなと思ってしまう。世界を変えるだとか愛を伝えるだとかおっきなことではなくて(どこか根底にはあるのかもしれませんが)"バンドとして活動"することが自分にとって重要だという常にブレることなく変わらない頑固な姿勢が今の不安定な時代に却って安心感を与えてくれる気もします。
前回の上映の時には映画版パンフレットが販売されていましたが、今回は売店に「映画公式パンフレットの製作はございません」ときっちり貼り紙がしてありました。横浜サンセットと同様にソフトパッケージ化はどうなるかわからないので(コロナ前とコロナ後でセットリストや会場の雰囲気も変化しているので)ちょっと名残惜しくも劇場を後にしました。消毒や飛沫対策はインフルエンザなど他の感染症も考えれば今後も継続してやって然るべきだと強く思いますが、音楽や映画を楽しむ時くらいはそろそろのびのびモードになると嬉しいなとも思ったりもします。難儀なご時世はまだ続きそうです。
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