NHKドラマ『ふれなばおちん』をイッキ観しちゃった独女の感想
ひさしぶりにというか、いわゆる不倫モノのドラマや映画はイヤだとか苦手意識があるというわけではないのですが観る機会がなく観てこなかった私がついに「おちん」いたしました。
ちなみに「ふれなばおちん」は漢字で表記すると「触れなば落ちん」。意味は以下の通り。
少し触れでもすれば落ちてしまいそうな、そのくらい脆い・繊細な・不安定なさま。とりわけ誘われれば断ることのない女性を指す意味で用いられることの多い言い回し。
― Weblio辞書より
私が小さい頃に『失楽園』(1997年)ブームがありましたが、草原を男女が裸で歩いているというこどもからしたら超謎のシーンしか覚えていません。シャ乱Qの「いいわけ」が印象的だった柴門ふみ原作のフジドラマ『Age,35 恋しくて』(1996年)は再放送も含めてガキのくせに結構観ていました。田中美佐子さんめちゃ好きでした(好きです)。正直こどもの立場からしたら両親の情事は生理的に嫌悪感はありましたし(当時の親の年齢になってようやくちょっと譲歩できるレベル)家庭崩壊の結末は「おいおい勘弁してくれよ」と思って観ていました。我が家は私が思春期の頃に父親が亡くなっているので不倫騒動に巻き込まれることは多分ありませんでしたが夫婦喧嘩や両親の不和はこどもからするととても精神的に不安定になるので、そっちの目線に立って観てしまうことの方が多かったです。
あらすじ
ある朝、社宅で暮らす上条夏(長谷川京子)は主婦仲間からうわさ話を聞いた。友人でもある小牧莉絵(戸田菜穂)が、夫と息子を残して、恋人と家出してしまったのだ。家庭が何よりも大切と思う夏にとっては、信じられないことだった。そんな夏に莉絵から電話がある。悪びれた感じもなく、女として充実した時間を送っているという。ほどなくして、階下に若い男・佐伯龍(成田凌)が越してくる。夏の心の何かが、ざわめき始める…。
―NHKオンデマンドより
原作は小田ゆうあさんの漫画。私は電子コミックでの無料お試しで少し読んだだけなので原作での話の流れや結末は知らないのですが、確か最初は夏の夫と30代くらいの佐伯がグルだったような気がしないでもない。
ドラマ版に話を戻しますと主人公の主婦、上条夏役はハセキョーこと長谷川京子さん。冒頭から家族にはいっぱいの愛情を注ぐ反面で自身のことに対してはズボラという印象付けを試みようと物語が進んでいきますが、薄化粧だろうが地味な服だろうが普通に超美人で体型も2児(しかも上の長女は既に中学3年生)の母親という設定は「完璧すぎる」と違和感はありつつフィクションなのでそこは気にしないようにしました。それでも朝に家族を起こすのも朝食を用意するのも荷物を管理するのも全部が夏。私の家庭環境では正直考えられません。母は鬼になります。
娘の優美香(演:山口まゆ)が大事な提出物を忘れたのでパジャマのまま走って届けるシーンがあるのですが、好きな幼馴染の男の子の前で母親の醜態??を見られた恥ずかしさもあってか「お母さんてそれでも女!?」と怒鳴り付けてしまいます。我が家だったらまず忘れ物は自分の責任として届けてはもらえませんし、仮にわざわざ届けてくれたとしてもこんなことを言おうものなら発狂されて返り討ちにされると思います。
こうして最初は「母」として「妻」としての自分の立場を貫く夏ですが、次第に「女」としての自分を抑えられなくなることに対して困惑するようになります。おたく脳の私はTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)で赤木リツコの母である赤木ナオコがMAGIを開発した時のエピソードばかり思い出していました。
マギ・カスパー、マギ・バルタザール、マギ・メルキオール。3基の独立したスーパーコンピュータシステムによる成体コンピュータシステムが完成した。開発者の赤木ナオコ博士は、娘のリツコに語る。3基のコンピュータはそれぞれ、科学者、母親、女としての自分だと、その3つがせめぎあっているのだと…。
「3つの母さんか」とリツコ。― TVアニメ第弐拾壱話『ネルフ、誕生』より
後の不倫相手となる佐伯龍(演:成田凌)は、昼間は夏の夫の部下として事務職にあたる派遣社員で夜は劇団員として活動する青年。初対面での夏に対する感想は「地味」。住んでいる安アパートが解体されることになったため、同じ部署の社員である若林みどり(演:古畑星夏)の口添えで上条家も住む社宅に引っ越すことになります。佐伯はかつて「アオヤギ」という役で昼ドラに出演していたことがあり、夏にとっては息子である真樹夫(演:篠田涼也)を出産したばかりで体調も良くなかった頃のある種の唯一の心の支えになっていました。こう考えると夏が恋したのは佐伯ではなくて「アオヤギ」だったのかもしれないなあとも。
夏の夫である上条義行役は鶴見辰吾さんなのですが、SEGA『龍が如く0』(2015年)での佐川※役がハマり役すぎて最後は佐伯が(金属バットで)ぼこぼこにされるのだろうと思って結構期待して観ていました。最終回では激昂して佐伯の顔を一発殴っていました。何も考えていないようで洞察力があり追い詰め方もなかなかの策士だったので途中から「表の佐川」と思って目が離せませんでしたネ。
※)近江連合直参佐川組組長佐川司 のこと
珍しく夏を外食に呼び出したかと思ったら、夏には内緒で佐伯も「いろいろ世話になったみたいだから」という理由で呼び出しており「さてと…揃ったね」と呟く台詞はめちゃくちゃ恐かったです。というか佐川役の方が時系列としては後なのに居酒屋でのそれはもう佐川にしか見えませんでした。
夏はパート先の意地悪で未熟な店長と少々対立していたため、龍と会っているところを夜の街中で見られてしまい目を付けられていびられるようになります。無理なシフトや仕事を押し付けられたり終いにはお客の前でも堂々といびってくるようになりますが、劇団の用事で店内に居合わせた龍は助けに出ようとするも店長に顔を見られているため若林に制止されます。そこに夫の義行が現れて「今日でここやめろ」と夏を迎えに来ます。プライドを傷付けられた店長は夏が男と会っていると暴露しますが、義行は動じません。「(仮にそうだとしても)あなたが見たこととこの職場とは何の関係もない」と言い放ったのはかっこよかったです。そんな修羅場を見ていることしかできなかった龍は自分の情けなさと無力感に憤りと敗北感を隠せません。
最終回にして夏と佐伯の逢瀬を確信した義行は、佐伯を殴り「たとえお前とどうこうなってもな、絶対あいつはお前を選ばないし俺はあいつを渡さない」と怒鳴り付けます。お父さんカッコイイ!!
夫と息子がいながら28歳年下の男性を愛してしまい家族を捨てて家を出て行った小牧の奥さんこと良くん(演:下田翔大)のお母さんである小牧莉絵(演:戸田菜穂)は女としての自分を尊重しましたが、後になって「良のことだけは失いたくない」と息子に会いに行くものの思春期ばりばりの男の子が母親の「女」の部分を見せつけられて反発しないわけもなく。夏に好きな男性がいることがわかった莉絵は相談にのるようになりますが、「女」としての自分を通した痛みを打ち明けつつも龍との逢瀬を応援するなど夏側の狂言回し的な立ち位置で「本当に好きならリスク取りなさいよ」とたきつける始末。同時に若林は龍側に立って「そんな顔(多分寂しい顔)するくらいなら奪いなさいよ」と叱咤するので2人の想いは不倫一直線です。
さて、家族ですら「うち(の妻、母親は不倫などできるはず)はない」と佐伯に対して警戒心を抱くどころかお隣さんとして歓迎するレベルで安心しきっていたのに、いざ当事者となると息子は軽いメンタルブレイクを起こし娘は疑心暗鬼になり夫はブチ切れ。
それでも夏のザ・良妻賢母である献身的な振る舞いと、娘や息子たちも立派に育っている様子を見て「あの家にいる彼女が好きだから」と好意を抱き矛盾した愛情をぶつけてしまう龍。当初は家庭を壊してまでという気はない素振りをしていましたが、役者としての活動拠点が福岡に移ることを契機に「あなたの世界壊します」と本気モードに。最後は「全部忘れる」と言って夏のもとから去っていきます。
自身がひと回りほど年下ということもあってか母性溢れる夏に甘えるような形で好きになってしまった佐伯ですが、無論家庭を壊すこともできず仕事の関係で福岡に移住するという物理的なきっかけを利用して夏とは縁を切るのです。
上条家に再び日常が訪れたとある日、夏は若林から受けた電話で「福岡の病院から連絡が」という言葉を聞いて崩れ落ちるわけですが何があったかは具体的にわからないまま「終|NHK」。佐伯のオーディションでの台詞(正確には「アオヤギ」の台詞を引用したかたちで夏に告白)で「あなたのいない人生なんかいらない」と惣流・アスカ・ラングレーみたいなことを言っていたので、向こうで自死したと考えるのが自然かもしれません。私が観た作品で成田凌さんが役の設定で死ぬのは3回目。色気がある役とダメな役と死ぬ役がさらりとハマるのはやはり素晴らしい。
意外だった??のはずっと佐伯に好意+不倫の先輩として劇団の活動を手伝うほどに龍に介入していた若林の方が冷静で夏の方がスマホを落として過呼吸気味にその場で動けなくなってしまっていたところ。若林は劇団の福岡行きにも同行できず佐伯に想いは通じなかったという自覚とけじめが付いていたようですが、夏にとっては愛してしまった男性の不幸も苦しいですが一生罪として背負っていかなければならないのだろうか…と妙に心配な雰囲気でした。
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それでもまだ若いのに既婚者との恋愛に玉砕して最終的に死を選ぶというのは(明言されていませんが)かなり卑怯だなという印象も。いっときの感情にほだされることなく家族を選んだ夏の決断は正しかったなと思わされる一幕でもありました。不倫の経験どころかそもそも結婚もしていないので家庭があるのに&家庭がいるひとなのに好きになる叶わない恋のつらさは味わったことがありませんが、美談にはならないというか後味は悪いけれども刹那的な儚い恋の物語だったなと沁み入るものがありました。
参考引用:
角川歴彦(発行)『新世紀エヴァンゲリオン フィルムブック⑧』角川書店, 1996.(p.34)
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