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映画『ここは退屈迎えに来て』を観て―国道を車で走り抜けラブホの灯りが見たくなる

2021年8月31日 

今年の夏はとりわけ夏らしさというものが感じられませんでしたが、夏の終わりにふさわしいえもえもな映画を観たので誰に頼まれたわけでもないですが感じたことなどを夏の思い出として書きました。

正直この映画に関しては作品に対してこう思ったとかこう感じたとかいうよりは、自身の高校生の頃や地元に対する思いというような感情を掘り起こさせられるものだったなという特殊な印象を持ちました。私は生まれも育ちも東京なので主人公の(演:橋本愛)やあたし(演:門脇麦)や椎名一樹(演:成田凌)たちが感じているような『東京』というものがどういうものなのか完全に理解することはできないかもしれませんが、東京=退屈なんか吹っ飛ぶくらい自己実現が容易な街&ふらふらしていてもそれをそれなりにヨシ!!としてくれる街ではないというのは強調したくなってしまいました。付かず離れず良い意味でドライな人間関係なのは魅力ではあるようですが、比較的自由な社会でもあるので同窓でも年数が経てば生活にもかなり差が見られます。地元に帰れば半強制的にお見合いさせられると言って帰るのを拒んでいる知人もいますので留まる理由はひとそれぞれ。そういった意味でもなかなかストーリー性に富んだ地域ではあると思います。

通り過ぎてからわかる若さの価値

全編通して観て感じたのは、青春時代というものは人間にとってある種とても残酷な時期であるということでした。周囲のおとなたちはこどもたちがまだ自分のコミュニティの外の世界を知らない頃から夢を抱かせて何者かになるように促すけれども、結局おとなになっても当時「なりたかった自分」になれるひとなんていうのはほとんどいません。特に高校生くらいは適当な感覚で生きていても若さゆえに意外と何とかなっていると錯覚することも多いので、漠然とした将来設計と惰性的な日常から抜け出せないでいるとおとなになってから「こんなはずじゃなかった」と嘆きを感じることもあるでしょう。かといって計画性がありすぎる若者時代もあまりおもしろくない気もするので複雑な時期です。

私は今の自分に正直満足はしていなくても昔に戻りたいとは思いません。月並みですが悩んだり笑ったり泣いたり怒ったりできたあの時代は帰ってこないからこそやはり美しいと感じるのだろうなとは思います。むしろおとなになってから成すべきことは過去を思うではなく、今を生きる学生や若者たち(≒昔の自分たち)に戻らない時間を精一杯楽しんだり苦しんだりすることを許してあげることだと思ったりもします。特にこんな時代だからこそ尚更にです。

先日、部活動の時に走っていた通りを歩きました。区内の都立高だったのでかなり都会的な場所ではありましたが、一歩裏手に入れば普通の住宅街で昔から住んでいるひとも多いのでそんなに洗練されてはいません。運動が得意でない私は某運動部のほぼ幽霊部員として活動していました。同じ学年で在籍している部員は私を含めても5人もいなかったので先輩の目も厳しくなく、放課後は適当にジャージに着替えて適当に学校周辺をお散歩していました。よく他の運動部の友達に「おい走れよ!」と笑われたものです。だいたい「あの駅まで」「あの施設まで」というのが決まっていて、当時は駅周辺も地味でしたが最近はこういうご時世なのでちょっと小綺麗になっていてびっくりしました。

当時は近くの大通りに今はなきコンビニ「am/pm(通称エーピー)」があってそこでレンチンしてくれるタイプの麦とろ牛丼を買って、陰キャ感満載ではありますが夏には学生や教員が寄り付かないような校舎の裏手で食べるのが好きでした。あの時に吹き抜けていた風と木の葉を揺らす音は今でも忘れられないものです。今は分かりませんが、当時はかなり自由度が高い校風だったので今でも感謝しています。当時の校舎は老朽化により建て替えられ、もう私の知る学校はなくなりました。変わらないものもあれば変わるものもあることを痛感します。

ただ私たちは卒業生ではありますがもう在校生でもなければ高校生でもないので、当時の面影をそのまま残しておいてほしいとは思いません。それは現在とこれからのひとたちのために必要だと思うものは残せば良いですし不要だと思うものはなくせば良いと思います。良かったことも嫌だったことも思い出は目に見えるモノではなく胸の中にしまっておければ良いのです。贅沢を言えばたまに当時の感覚を引きずり出せるようなものがちょっとでも残っていればいいかなとは思います。今が充実していようがなかろうが過去に固執しすぎるのは意味がない気がします。歳月が経てば風景が変わるのは当たり前なのですから。

つまり、そんなおとなになってしまった複雑な心情をちくちくとほじくり返してくるような映画だったなと強く感じさせられました。

椎名くんという絶妙なカリスマ性を持ち青春時代の象徴とされた男子学生も、各地で職を転々とした後に自動車教習所の教官となり結婚した相手からは「つまらない男よ」と称される始末。もちろん相手は幸せそうですし当人も充実した生活ではないということではないと思うのですが、学生時代の「なんとなくこのままでもそれなりになんとかなりそう」という謎の自信は打ち砕かれているような感はありました。

フジファブリックの音楽と作品が合わさる

登場人物が劇中で歌う『茜色の夕日』(2005)は故・志村正彦(Vo./Gt.)がボーカルを務めていた頃のフジファブリックの曲です。「故」という悲しい言葉は使いたくないのですが、彼が生前に作詞作曲を手掛けた『若者のすべて』(2007)は特に有名で今でも夏の終わりの代表曲として歌い継がれカバーするミュージシャンが多いですね。

劇中では「あたし」がラブホテルを出てから誰もいない県道??で大声で歌うシーンがいちばん印象的でした。新保健大(演:渡辺大知)がバイクで走りながら歌っているのを観た時は映画『ソラニン』(2010)の種田とかぶってしまって「まさか死亡フラグか⁉」と勝手に勘繰ってしまったのですがそういった展開はありません。

そこ⁉と思われるかもしれませんが、本編でいちばん好きだと感じたのはエンドロールです。富山県内の県道をただ車で走っている様子を運転席から眺めるような映像とフジファブリックの主題歌。私は車が苦手で運転免許も持っていないのでこういった経験はできませんが、よく地方の国道や県道沿いにはお城みたいな派手なラブホテルがあって車のまま入れるようになっているらしいというのを映画や音楽で聞くんですね。地方に住んでいたひとは「学生時代の待ち合わせ場所が目立つ建物なのでラブホだった」とか、スピッツの『ローテク・ロマンティカ』(2002)という曲に「地平を彩るのはラブホのきらめき」という歌詞もあり、個人的には走行中眼前に次々と現れるコンビニ→紳士服店→ファミレス→ガソリンスタンド→ファストフード店というような郊外の車道のイメージがちょっと憧れだったりするので、それは至って普通の光景なのかもしれませんが逆におしゃれに見えました。

都内の場合は道沿いにお城が建っているというよりは、がっつり街の一部が風俗街やホテル街になっている場所の方が圧倒的に多いので車道沿いのホテルに車でスッとINするという感覚はあまりありません。東京の方があけっぴろげなので思春期まるだしの学生目線で見た「ラブホテル」的なロマンはありませんでした。今はかなりマシになったと思いますが客引きや謎の売人の温床みたいにもなっていた記憶があるので学生が面白半分に迂闊に近寄れる雰囲気ではありませんでした。

とは言うものの都内にも桜で有名な目黒川沿いに「目黒エンペラー」という歴史を有する由緒正しき元祖お城型ラブホテルがあるらしいのですが、目黒区在住の友達から「目黒エンペラーに集合!!」という文化があったかという話は聞いたことがありません。

18歳未満はダメ!!ですが今では女子会も可能

私の場合は高速道路や県道の風景を見る機会というのがだいたい学校の林間学校や臨海学校や部活の合宿くらいだったのですが、だんだん田舎っぽくなっていく感じの開放感はもしかしたら地方のひとが上京してくる感覚と近いのかなとも思いつつも多分「それは違う」と言われるだろうなとも思い比喩が難しい。よく覚えているのは修学旅行やプライベートの旅行などで東京に帰ってくると点々とした灯りが動き出しビル群が増えてきてその隙間から東京タワーが突然現れるのですが、そうすると友達が「あ、もう着くね」とちょっと寂しそう&安堵した感じで言うのが妙に青春ぽくて印象深いです。

いろいろ悩んでいる方には「東京に実家がある奴はいいじゃんか」と鼻に付く感じかもしれませんが(実際に東北から上京して賃貸で苦労している友達から似たようなことでいじられたので)、地方に住んでいる若者も東京に住んでいる若者も基本的な悩みは何も変わらないと思いました。私もずっと同じ場所にいていつもと変わらない雑多で汚い不衛生な街の風景、どこに行ってもひとだらけ、表情はないのに確実に浮遊する喜怒哀楽の感情、求人の数は多くても得体が知れなく質が悪く中には違法のものすらある…と悶々としていて温かみのある田舎暮らしに憧れたこともありました。それでも結局住み慣れた街を出て行ける覚悟も適応力もなく、場所を変えるだけで自分を変えられるとももはや思わないので今は先祖が繋いでくれたこの地に満足していますし大切にしたいとも思っています。

映画の感想というよりは完全なる自分語りになってしまいましたが「私」と「あたし」と「椎名くん」の中にまたいろんな「わたし」や「僕」や「俺」が存在し得るのだろうなと。多様な共感を呼ぶ作品だと思いました。

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