映画『くれなずめ』を観て―陰キャにも陰キャなりの青春と人生がある!!

2021年7月22日 

ややネタバレあります

多くの方がそうかもしれませんが、私が映画を観る時は監督や原作者や役者さん縛りで一気にいろんな作品を観ることが多い気がします。以前だったら近所のTSUTAYAに「北野武監督作品」コーナーみたいな仕切り棚があってそこから観たいのをガシガシ引っこ抜いたりしていました。そんなレンタルビデオショップも生活圏内では全滅。今ではもっぱらサブスクリプションです。

私は映画『悪人』(2010)を観て感銘を受けほとんど手にしなかった漫画でもライトノベルでもない小説を買って読みました。そこからNetflixやU-NEXTで「吉田修一」で検索して『横道世之介』(2012)を発見し鑑賞したのですが非常に良かった!!店頭であれでもないこれでもないと検索機も併用しながらDVDを探している時代も良かったのですが、ネット定額制は検索精度とコスパが半端ないので映画好きには嬉しい悲鳴です。

そして現在「縛り」で鑑賞しているのが役者の成田凌さんと若葉竜也さん。最近だとNHK朝の連続テレビ小説『おちょやん』に2人とも出演していました。朝ドラ恒例の「(小暮)ロス」を生み出した若葉さんとは対照的に視聴者全員から「どあほ」の烙印を押された成田さんの対比は何故か面白かったです。

その私の中での縛りが功を奏して今回鑑賞することができた映画作品が松居大悟監督『くれなずめ』でした。松居監督の作品ではじめて観たのは『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年)で、当時は近所のレンタルショップでDVDを借りてきて深夜にひとりで再生。原案はロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観さん、監督・脚本は松居大悟さんが担当したオムニバス形式の「青春群像劇」です。私はオムニバスっぽいと思って観ていましたがそれぞれの物語(MVに近い)に出てくる主人公が絶妙に交錯しているので完全に独立した構成ではありませんでした。特に池松壮亮さん主演の『傷つける』の話が印象に残っています。舞台『リリオム』(2012)の存在もちょうどその頃に知ったので、リアルタイムで劇場に足を運べなかったのが非常に悔しかったのを覚えています。

※)モルナール・フェレンツ原作『リリオム』をもとにした松居大悟演出による現代劇。主演は池松壮亮、テーマ曲もクリープハイプ。2012年5月25日(金)から6月3日(日)までの期間に、こどもの城・青山円形劇場にて上演された。

松居監督によるクリープハイプ『憂、燦々』のMV

映画パンフレットで若葉竜也さんがリリオムについて触れていたので余計に「もっと早く知っていれば…」と思いました。

もともと松居監督とクリープハイプの尾崎世界観さんの親交が深いのは当時から知っていましたが、今回の『くれなずめ』製作にあたって公開されたインタビュー等では主演の成田凌さん自ら親交のある尾崎世界観さんにお願いして松居監督との出会いを果たしているようです。芸能界に限らず仕事や出会いのきっかけというのは実力はもちろんのこといろいろな縁とタイミングの巡り合わせですね。

さて、肝心の映画を観ていていちばん気になったのは、藤田欽一(演:高良健吾)、明石哲也(演:若葉竜也)、曽川拓(ソース)(演:浜野謙太)、田島大成(演:藤原季節)、水島勇作(ネジ)(演:目次立樹)の5人が「友人の披露宴と二次会の狭間」という時間内でのふとしたきっかけで吉尾和希(演:成田凌)のことを思い出すのですが、それぞれ場所も時系列もばらばら。そのため高校生の頃のなんだか情けない吉尾だったり、童貞か否かの質問を小難しい論点にすり替えるおかしな吉尾だったり、社会人になってから妙にシリアスで現実的な吉尾だったり、吉尾が好きだったお菓子の味だったりと回想シーンがいろんな側面からあるにも関わらず(逆にその多面性の影響で)「吉尾」の人物像が割とはっきりしません。と思っていたら既にインタビューでそのことについては触れられていて非常に興味深かったです。

ーー吉尾はすでに亡くなっていることもあり、明石(若葉竜也)、ソース(浜野謙太)、大成(藤原季節)、ネジ(日次立樹)、欽一(高良健吾)とそれぞれの記憶の中の吉尾が映し出されていきます。ひとりひとりの記憶だからこそ、吉尾の雰囲気がすべて違うのが印象的でした。

出演者からも評価が高いネジによる回想シーン(大成が寝ている横でネジが吉尾に童貞か否か詰め寄るところ)で吉尾がウルフルズを好きなことを知り「モゴモゴしてるくせにまっすぐなやつ好きだよな」と言う台詞がありますが、披露宴と二次会の間に欽一??だったかに「コンビニに行くけど何か欲しいか」と聞かれた際に吉尾が真っ先に「愛」と返答するシーンがあるんですネ。有名なフレーズなのでわかるひとにはすぐわかると思いますし、その後も「愛はコンビニでも買えるけれどもう少し探そうよ」と言ってふざけています。この時に「あ、吉尾ってウルフルズだけじゃなくてスピッツも好きなのか」と思って(私がスピッツをよく聴くので)劇場内でひとりでムフとにやついていました。年代的にもウルフルズとスピッツは同じ世代のロックバンドですが、タイプとしては対極な感じなのでとりあえず私の中で吉尾は邦ロック好きという人物像に至りました。我々アラサー(よもやアラフォー)には刺さる選曲です。

副音声付き上映行きたかったです

前田敦子さんのブチ切れ演技もかなり気合が入っていて面白かったです。基本的に不機嫌で怒鳴っている演技が多かったあっちゃん(役名は「ミキエ」)が吉尾に対して「死んだら偉いわけ!?」みたいな台詞で怒鳴りつけるシーンがあるのですが、そこは普通にいろいろ考えさせられました。この世に生を受けたものは必ずその命を還す(亡くす)もの。老衰だったり病気だったり年齢を重ねた高齢者でしたら亡くなることも自然の摂理ではあるのですが、本人はあっけらかんとしていましたが吉尾くらいの年齢で「死」が訪れるのはあまりにも不条理です。しかしあっちゃんはその不条理を受け入れざるを得なかった吉尾に対して「(死んだら生きていた時より偉くなるのか?)」と言い放ったのが正直なところ腑に落ちたところがあって強く印象に残りました。

『それが答えだ!』のアンサーソングにもなっている主題歌

その後も死してなお5人の前に姿を見せ続ける吉尾に対して苛立ってきた5人は「早く成仏してくれ」と夕暮れ時の太陽に向かって吉尾を担ぎ上げるのですが映画館内なので爆笑はできませんがさすがに笑いました。その後も「お前うぜーな」と言い放ったりと死者に対して変な感じにデリケートにならないのが個人的にとっても好きなポイントでした。日本の場合だと仏教の概念が強いものの昨今では儀式だけが先行して形骸的になりがちではあるとは思っていますが、死者には尊厳をもって弔うのがヨシ!!という一般常識的なスタイルに対して真っ向から歯向かっていく5人のあがきは泥臭くて好きでした。しんみりするでも無理におとなに振る舞うでもない人間臭さと、吉尾のひょうひょうとした人物像が生きている人間と死んでいる人間のしがらみのようなものをうまく取っ払ってくれたように感じています。

私の中で結局「吉尾」って何だったんだろうという哲学的な問いにまで発展しそうでしたが、最後のシーンで「吉尾は全部ひっくるめて吉尾」という人間あるあるにたどりつくしかありませんでした。「こいつはこういう奴だから!!」という型にはまらない愛され方が監督や演者含めての作品の力でふんわりと表現されていたのはグッとくるものがあり、途中に映画というよりは舞台の演出を踏襲した怒涛の展開もありましたが「死」というテーマが中心にありながら肩肘張らずに観られる日常風景がそこにはありました。

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