映画『愛がなんだ』を観て―作品に騙され渋谷や下北沢で青春できると思ってはならぬ

2021年6月13日  2021年6月3日 

ここ最近ネットフリックスで映画、特に邦画を観ています。まだストリーミング配信が今ほど一般的でなかった頃はシネコンもそうですが「テアトル新宿」「渋谷TOEI」「新文芸坐」などの劇場も結構通っていたように思います。今はなき「銀座シネパトス」も昭和の趣が残る非常に良い映画館でした。

現在は映画館といえば「TOHOシネマズ」や「イオンシネマ」などのシネマコンプレックスが主流で、いわゆる単館系の映画館(ミニシアター)はあまりパッとしない印象になってしまいました。私がまだ小さかったバブル終焉後や平成初期などは大型連休ともなると小さな映画館に大勢のひとが集まるので立ち見が出たり、前売券や特別招待券はあったと思いますが今のように日時座席指定券というものがなかったので1日居座って同じ映画の字幕と吹替を両方観るなんてことも普通にできました(本当はだめです)。以下で各劇場をまとめ。

シネマコンプレックス(複合型)

大型の商業施設に入っていることが多い。大手の有名作品を複数公開しているので収容人数も多く飲食物やグッズなどの販売も充実しており商業的な作品が目立つ。大型ならではのオリジナル物販やイベントなども盛況。

TOHOシネマズ

東宝系。新宿歌舞伎町から見える巨大なゴジラ像は今ではちょっとした名所。シネコンの中では圧倒的な存在感があるが王道すぎて逆に特徴がないという感もある。予告編などで有名なのはアキラ先輩とロペによる日常劇「紙兎ロペ」と総統と島根の吉田くんによる秘密結社「鷹の爪団」。

イオンシネマ(ワーナーマイカルシネマズ)

イオン系。他と比べると郊外型で都内にはほとんど劇場はないが地方での集客が強い印象。ワーナーマイカルと合併したため割と最近まではバックスバニーやトゥイーティーをはじめとしたルーニー・テューンズのキャラクターが館内を彩りちょっとしたアトラクションのようになっていたがイオンの完全子会社となったことから自然と見かけなくなり少々残念。

T・ジョイ
都内では新宿バルト9が有名。同ビルに入った商業施設である新宿マルイアネックスとコラボするなど立地的に差別化を図った広報や商業展開が特徴的。

109シネマズ
東急系。二子玉川の映画館といえばここ。私はあまり利用したことがないので特筆できることがなくて悔しい。

松竹マルチプレックスシアターズ
松竹系。有楽町マリオン等に入っている丸の内ピカデリー(スクリーンの大きさは驚愕もの)や新宿ピカデリーなどの大手劇場を有する。特に丸の内は歴史があり老若男女に親しまれる昔からの映画館。

ミニシアター(単館系)

シネコンと比べると圧倒的にスクリーンが少ない&小さいので一定の期間で公開できる作品数は少ない。シネコンの台頭により都内でもあまり目立つことがなくなったが地方と比較すると残存している劇場は多い。新作の上映期間は比較的長めに設定されるが、リバイバル上映など企画系は数日程度で終わることも。物販などは最低限に留まっているが、監督や役者の舞台挨拶があると観客からの質疑応答を設定してくれたり(関係者登壇によるトークセッションや観客とのディスカッションは時間の許す限りだったりもするのでファンには垂涎もの)運が良ければ館内で偶然会えたりすることもあるので映画好きには絶好の場所。

銀座・有楽町エリア
丸の内TOEI
ヒューマントラストシネマ有楽町

新宿エリア
K’s cinema
シネマート新宿
テアトル新宿
新宿シネマカリテ
新宿武蔵野館

池袋エリア
新文芸坐

渋谷・その他エリア
ヒューマントラストシネマ渋谷
ホワイトシネクイント
渋谷TOEI
下北沢トリウッド
下高井戸シネマ

閉館した映画館

施設の老朽化や再開発に経営不振などの都合で老舗の劇場もここ何年かで閉業を余儀なくされている。特に衝撃的だったのは後述の「銀座シネパトス」。閉館間近の際にはファンによって地下街通路の壁に大量のメッセージが書かれた。

銀座シネパトス(2013年閉業)
耐震性の関係で閉業せざるを得なくなってしまったが、根強い人気を誇った超昭和レトロなアングラ劇場。最後に観に行った映画は壇蜜さん主演の『私の奴隷になりなさい ディレクターズカット(R-18)』。館内はお世辞にも清潔とは言い難い造りではあったが古き良き劇場の姿を体現した貴重な構造であった。ファンの間では今もなおその支持は衰えない。

新宿ミラノ座(2014年閉業)
歌舞伎町広場(現在のシネシティ広場)の奥にあった映画館。なくなることはないだろうと思っていたら再開発に伴い??閉館。まだ園児くらいの幼少時に親に連れられてだったり学生の頃に友達と一緒にだったり何かと思い出深い場所だったので跡地を見ると今でも思い出す映画館の聖地。付近のボウリング場やゲーセンなどは上映までの遊びにはちょうどよかった。

シネマ・アンジェリカ(2005年閉業)
渋谷道玄坂にあった小さな劇場。観に行ったのは『ルパン三世』1st. TVシリーズのリバイバル上映とAプロダクション演出グループ(高畑勲・宮崎駿、大塚康生)のドキュメント映画。上映館はそこのみだったがパンフレットやオリジナルのポストカードが販売されていたので即購入。かなり狭い箱だったのは覚えているが、屋内にびっしり貼られたさまざまな映画のチラシが印象的だったように記憶している昔ながらの地下劇場。

吉祥寺バウスシアター(2014年閉業)
吉祥寺駅から少し歩いたところにあった古い映画館。出入口には大量のフライヤーが置いてあり、それのみ目当てで来場している映画通のひとも多かった。スクリーン自体はこぢんまりとしていていかにも地域密着型の小さな劇場。気軽に飲食できる雰囲気になかったのですぐ外にあるクレープ屋で腹を満たしてから鑑賞した記憶。

ミニシアターのすごいところは成人向けの過激な作品を上映する(できる)という強みから、平日の昼間には明らかに缶ビール片手にほろ酔い状態のおじさんや係員と馴染みになっている常連のおじいさん、興奮を隠すのに必死なのか三角座りに切り替える男性などアングラな雰囲気が絶えないという今のご時世では完全に危険な空間であることがもはや魅力な点です。最近では若手の有名俳優(男女含めて)がギリギリを攻めた濡れ場に挑戦することが昔ほど珍しくないので、男性はもちろん女性ファンもそれを目当てに鑑賞している感がある人間の欲望や本能の塊みたいな空間です。

2021/6追記)
先日に銀座シネパトス跡地を通ったところ綺麗に整備され洒落た小休憩スポットみたいになっており銀座の会社員風の方々がところどころにあるベンチに座っていました。残念ながらかつての雑多な空気感はなく洗練されてしまっていたのは少々寂しかったです。

新宿東南口方面にはかつて「新宿国際劇場」というポルノ映画館がありました。既に閉業していますが20年くらい前には通常営業していたのをよく覚えています。今ではドン・キホーテ新宿東南口店になっている辺りだと思いますが、あんな場所に堂々とピンク映画の看板が掲げてあったのも今では古き良い思い出。人通りも多くかなり目立つ場所でしたが割と盛況だったと思います。ちなみに私は当時未成年でしたので入れませんでしたが興味はありました。

シネコンやネット配信が一般的になった今ではミニシアターや成人向け映画館はあまり需要もないのかなあと時折寂しくもなりますが、もちろん全滅したでも支持されなくなったわけでもありません。個人的な感想として最近のミニシアターで上映される映画で多いカテゴリが文芸系ヒューマンドラマ。シネコンで扱う感動ドタバタ青春ラブコメディとはかなりベクトルが異なる言うなれば良い意味で地味なタイプです。

映画『愛がなんだ』

原作:角田光代「愛がなんだ」(角川文庫刊)
監督:今泉力哉
キャスト:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也

前置きが長くなりましたが、最近観たミニシアター系映画で感じたのが「渋谷や下北沢周辺は青春群像劇の餌食になりやすい」ということ。語弊が生じそうですがもちろん悪いという意味ではなく私が率直に感じただけのことなので他意はありません。むしろ東京生まれ東京育ちなのに全然パッとしない青春時代を過ごしてきた私としては、東京での日常がこんなに綺麗に切り取れるものなのかと感動すら覚えています。

あらすじ

猫背でひょろひょろのマモちゃんに出会い、恋に落ちた。その時から、テルコの世界はマモちゃん一色に染まり始める。会社の電話はとらないのに、マモちゃんからの着信には秒速で対応、呼び出されると残業もせずにさっさと退社。友達の助言も聞き流し、どこにいようと電話一本で駆け付け(あくまでさりげなく)、平日デートに誘われれば余裕で会社をぶっちぎり、クビ寸前。大好きだし、超幸せ。マモちゃん優しいし。だけど。マモちゃんは、テルコのことが好きじゃない・・・。

―公式サイトより

あらすじを読む限り若さゆえの不安定な恋愛(それでも年齢設定は28歳のアラサー)が感じられますが、こうした女性や男性の恋愛模様の機微を引き立てるのが物語の舞台となる「ロケ地」だと思っています。以下がこの作品で中心になる場所。

・豪徳寺商店街(世田谷区)
マモちゃん(タナカマモル)に「どっか行かね?」と誘われたテルコ(山田テルコ)が焼きいもを分け合って食べながら一緒に街を歩くシーン。美術さんが自ら焼いた消え物ではなくロケ地である豪徳寺商店街にある焼きいも屋さんの焼きいも。2人の横を走っている2両編成の小さな電車は東急世田谷線。豪徳寺駅は小田急線の駅ですが、すぐ近くに「山下」という世田谷線の駅があるのでこういったシーンが撮れます。

世田谷区豪徳寺にある焼き芋専門店ふじ
f-yakiimo.com/

また、テルコがマモルと一緒に使おうと2人用の土鍋を購入するシーンがありますがそこも豪徳寺商店街に実在するホームショップ屋さんです。

・世田谷代田(世田谷区)
マモルがタクシーで帰る時に運転手に伝える行き先。豪徳寺と同じ小田急線の駅で下北沢のすぐ隣です。ようやく落ち着いてきましたが線路の地下化に伴い工事現場が多く駅前は特に何もありませんでしたが、最近なぜか現場跡地に高級な温泉施設ができました。

・中目黒(目黒区)
目黒川の桜並木で有名な東急東横線やJR線が利用できる中目黒。よく「ナカメ」と呼ばれてオシャレなバーやカフェなどがあるイメージですが割と普通の雑多な街。ペットショップがあるのでハムスターを探しに行ったことがある程度で私もそんなに降りたことはありません。当時は有名なラーメン屋さんがあったと思うのですが調べてみたところ閉店してしまったようです。どちらかというとお隣の恵比寿の方が汎用性が高い印象。

・【番外】神保町(千代田区)
劇中では「神保町」という地名は出てきませんでしたがロケ地として有名な場所も出てきました。現在は閉店していますが『ゲームコーナーミッキー』の看板と『酔の助神保町店』が出てきます。焼酎を注文しようとしたテルコがマモルに「あんま酔っぱらうとさ、山田さんぐずって帰んないだもん」と吐き捨てられた居酒屋がここ。

* * *

強引にまとめると、神保町からタクシーで自宅に帰る時に「世田谷代田まで」とは言うけれど生活圏は少し離れた豪徳寺周辺であると考えられます。原作準拠なのかもしれませんが映画のロケハンと撮影や編集などの技術は偉大です。

ロケ地や舞台で人気な私鉄沿線

沿線に東宝スタジオや多くの撮影所などを構えているのも影響してか否かロケ地として出てくることが多い私鉄や多摩川沿い。他にもジブリ作品『海がきこえる』(1993)、新海誠監督『秒速5センチメートル』(2007)、浅野いにお原作『ソラニン』(2010)などでも駅周辺が舞台として採用されています。

有名な桜のシーンで小田急線が横切る

下北沢やその周辺の雑多な雰囲気や多摩川沿いというエモさも手伝って「若い男女が悩み苦しみながら恋愛やその先を考えつつ非日常感を生きていく」という学生よりはちょっと上のまだ若い社会人の恋愛をリアルに描いた作品が多い気がしています。そのため借りている部屋は1K程度。同じシングルベッドで眠り狭いキッチンで自炊。古いアパートなのでセキュリティ面もきちんとしてはいない。

小田急線が架かる多摩川沿いが舞台

渋谷区や世田谷区内に限って言えば学校(大学や専門学校)が多いので、そこに通うために上京して独り暮らしを始めた学生が就職後にもそのまま住んでいるという「まだ学生感が抜けない社会人」を表現するのにとても適した立地だと感じます。ある程度キャリアを重ねて結婚なども考えるようになるともっと郊外の方や周辺の県に転居するひとも増える印象です。

下北沢周辺は小劇場やライブハウスなども多いので「モラトリアム」を表現するには親和性が高い。そういう点でも演者の役柄や設定に雑音を入れることなく自然体な画が撮れるのかなーと勝手に推測してみたりもします。これが特定しやすい場所だと現実が入り込んできやすいですし、かといって全く知らない場所だと感情移入もしづらくなるのでちょうどよくぼんやりしているのが渋谷や表参道や下北沢の辺りかなと思っています。

ただし現実は厳しいもの。学生さんには比較的寛容な賃貸物件が多いイメージですが、それなりの設備や立地を考慮して定住しようとするとなかなかのお家賃です。映画や小説といった架空の世界でこそいい感じに光る場所だと思うので、とりあえずこの辺に住んでいればあの俳優さんや女優さんの映画の世界のような甘くて苦い青春や恋愛が送れるかも!!と思っているとしたらそれは非常に危険。よく「田舎の青春に憧れる」などと言おうものなら田舎ガチ勢に「田舎を舐めるな(夜型で体力もないお前は1日ともたない)」と怒られるのですが、多分それの逆です。

いろいろ遠回りしていますが結論としては、生半可な思いで東京に住もうと思うな!!ではもちろんなくて虚構と現実は思いのほか乖離しているということです。映画『愛がなんだ』で言うなら、マモルやテルコが住んでいるような古いアパートで深夜に「やらせて」は近所迷惑になる可能性が非常に高いので鉄筋系のマンションもしくは戸建物件をおすすめします。結局下ネタですみませんでした。

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